31 / 35
第31話
詩織の家は、ビジネス街の外れにあった。
1階部分は店舗になっていて、夜になると店を開け、BARとして営業しているのだという。
マオは詩織の後をついて、2階の居住部分に足を踏み入れた。
詩織は箪笥からタオルと新品の下着を貸してくれた。
「あ、下着は自分のがあるんで」
「あらそう?じゃあ、シャワーを好きなだけ浴びてちょうだい」
「はい、ありがとうございます」
マオがシャワールームへ入って行くと、詩織は「ふぅ」と盛大な溜息を吐いた。
スラム街近辺で張っていてよかった。
まさか榊がマオに乗っかっているとは思わなかったが、助けられたのだからそれでいいとしよう。
それにしても、榊には驚いた。
詩織が彰彦から調べものを頼まれた時、榊についても当然調べたのだが、行方知れずということになっていた。
更に麻薬の密輸容疑がかかっており、お尋ね者となっていたのだ。
まあ彼の身柄は警察本隊が確保したのだから、問題はないだろう。
詩織は彰彦の番号を携帯に呼び出すと、通話ボタンをタップした。
相手は連絡を待っていたのか、ワンコールで出てくれた。
「三田村ちゃん、マオちゃんを発見したわ」
『本当か!?』
「ちょっと危ない目に遭っててね、今アタシの家でシャワー浴びてるの。三田村ちゃん、迎えに来られる?」
『すぐに行く!マオを逃がすなよ!?』
「心配ないわ、アタシと三田村ちゃんの関係は、マオちゃんに話していないもの」
そして電話を切る。
シャワーからはまだ水音が聞こえているので、マオに会話を聞かれてはいないだろう。
彰彦は、マオがシャワーから出てきてすっかり着替えが終わったと同時に、やって来た。
「彰彦様……」
彰彦は詩織を横目で一瞥すると、マオの方へズカズカ歩み寄っていく。
そして、パン──、と頬を叩いた。
「なぜ叩かれたか分かるか、マオ?」
「……わ、分かりません」
「昨夜俺はお前に、ずっと俺の家に居て欲しいと言った!なのに、何が不満だったんだ!?」
「不満なんて……」
詩織は2人のやり取りをしばし傍観していたが、これ以上睡眠時間を削られるのはご免だとばかりに割って入った。
「2人共、痴話喧嘩なら家でやりなさいよ。アタシは眠いの」
「ああ、そうだったな……すまない、詩織」
「え……彰彦様、詩織さんとお知り合い……ですか?」
「長い付き合いだ。俺が『接待』という時は、大抵ここの店で飲んでから帰っている」
「そうそう。でも料理は食べないのよ。『家でマオの手料理が待ってる』とか何とか言っちゃって」
ともだちにシェアしよう!