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第31話

詩織の家は、ビジネス街の外れにあった。 1階部分は店舗になっていて、夜になると店を開け、BARとして営業しているのだという。 マオは詩織の後をついて、2階の居住部分に足を踏み入れた。 詩織は箪笥からタオルと新品の下着を貸してくれた。 「あ、下着は自分のがあるんで」 「あらそう?じゃあ、シャワーを好きなだけ浴びてちょうだい」 「はい、ありがとうございます」 マオがシャワールームへ入って行くと、詩織は「ふぅ」と盛大な溜息を吐いた。 スラム街近辺で張っていてよかった。 まさか榊がマオに乗っかっているとは思わなかったが、助けられたのだからそれでいいとしよう。 それにしても、榊には驚いた。 詩織が彰彦から調べものを頼まれた時、榊についても当然調べたのだが、行方知れずということになっていた。 更に麻薬の密輸容疑がかかっており、お尋ね者となっていたのだ。 まあ彼の身柄は警察本隊が確保したのだから、問題はないだろう。 詩織は彰彦の番号を携帯に呼び出すと、通話ボタンをタップした。 相手は連絡を待っていたのか、ワンコールで出てくれた。 「三田村ちゃん、マオちゃんを発見したわ」 『本当か!?』 「ちょっと危ない目に遭っててね、今アタシの家でシャワー浴びてるの。三田村ちゃん、迎えに来られる?」 『すぐに行く!マオを逃がすなよ!?』 「心配ないわ、アタシと三田村ちゃんの関係は、マオちゃんに話していないもの」 そして電話を切る。 シャワーからはまだ水音が聞こえているので、マオに会話を聞かれてはいないだろう。 彰彦は、マオがシャワーから出てきてすっかり着替えが終わったと同時に、やって来た。 「彰彦様……」 彰彦は詩織を横目で一瞥すると、マオの方へズカズカ歩み寄っていく。 そして、パン──、と頬を叩いた。 「なぜ叩かれたか分かるか、マオ?」 「……わ、分かりません」 「昨夜俺はお前に、ずっと俺の家に居て欲しいと言った!なのに、何が不満だったんだ!?」 「不満なんて……」 詩織は2人のやり取りをしばし傍観していたが、これ以上睡眠時間を削られるのはご免だとばかりに割って入った。 「2人共、痴話喧嘩なら家でやりなさいよ。アタシは眠いの」 「ああ、そうだったな……すまない、詩織」 「え……彰彦様、詩織さんとお知り合い……ですか?」 「長い付き合いだ。俺が『接待』という時は、大抵ここの店で飲んでから帰っている」 「そうそう。でも料理は食べないのよ。『家でマオの手料理が待ってる』とか何とか言っちゃって」

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