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第32話

家へ帰る道すがら、彰彦はマオの手を握ったきり、何も喋らなかった。 何から話せばいいのかが分からない、と言った方が適切だろうか。 マオのことは大切に想っている。 愛していると言っても過言ではないくらいに、想いが大きく育っている。 だが、マオは彰彦の愛に応えてくれるだろうか。 「抱きたい」と言って、過去を思い出させてしまうような結果になったら、その方がずっと辛い。 「彰彦様……」 ひたすら沈黙を貫いていると、マオの方からおずおずと話しかけてきた。 「何だ?」 「俺は……何がいけなかったのかが分かりません……どうして連れ帰るんですか?」 「そんなことも分からないとは、なかなかの鈍感ぶりだな、マオ?」 「え……?」 否、責めるべきはマオだけではないだろう。 ずっと愛していながら言葉にせず、プレゼントに愛情を込めて、拒まれては凹んでを繰り返していた彰彦も、十分悪い。 せめてなぜ受け取らないのか、その理由くらいは訊くべきだったのに、そうしなかった。 「マオ、俺が『抱きたい』と言ったら、お前はどうする?」 「えっと、昨夜みたいな抱擁のことですか?」 「違う、セックスのことだ」 「──っ!?」 マオの反応が怖い。 今息を詰めたのは、過去を思い出したからだろうか。 ちゃんと返事をしてくれるのだろうか。 だが、だめだと言われても、マオを愛する気持ちは変わらない。 セックスは互いの愛を確かめ合う手段であり、強要するものではない。 だから拒まれても、そうしたいと思ってくれるまで、辛抱強く待つしかない。 「彰彦様となら……いいです」 「は……?」 「な、何度も言わせないでください……彰彦様なら、いいんです」 この5年間、マオの中には彰彦しかいなかった。 時折昔のことを思い出して吐き気を催すことはあったが、それでも彰彦の笑顔を見れば安心できた。 「驚いたな……」 「自分で誘ったのに……驚かないでください……」 「そうか……俺ならいいのか……お前も俺と同じ気持ちだったのか……」 それは、愛しているという気持ち。 互いに互いを愛し、求める気持ち。 「彰彦様は、なんで俺なんですか……?他にいくらでも相手がいそうです」 「残念ながら、俺のハートは5年前にマオに奪われていてね。マオ以外は俺の心に入りきらないんだ」 「お、俺だって同じです!」 素直になるまでは葛藤や躊躇があるが、素直になってしまえば案外楽だ。 本当の気持ちを口にできるのだから。 彰彦とマオは見つめ合うと、どちらからともなく微笑を浮かべた。

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