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第4話

「田賀、早起き出来るようになったんだな」 人の少ない朝の食堂で馬瀬は呟いた。時刻は六時半。部活の朝練習がある生徒しか活動していない時間帯だ。 馬瀬は最近入部した野球部の練習に参加するために、こんな時間に朝食を摂っている。 しかし僕はまだどこにも入部していない。 そんな僕が何故早起きをしているのか疑問に思っているようだ。 「先輩が起こしてくれるんだ。僕は朝に宿題したいから助かってる」 「は?あの鬼山先輩に起こしてもらってんのかよ」 馬瀬はポテトサラダを食べる手を止め、僕をまじまじと見つめた。 「寮生活始まって一カ月経つけど、お前変わったな。最初は先輩にビビってたのに」 「そうかな。慣れちゃっただけだ」 彼の言う通り、僕は最初のうちは先輩にビビっていた。しかしあの日を境に先輩に対する恐怖は小さくなっていった。 ───────────────────── 僕はその日、休日への期待に胸を膨らませていた。 学校がない日は寮内で好きに過ごしてもいいのだ。そこで僕は、最近観られなかった映画を好きなだけ堪能しようと計画していた。今はレンタルショップに行かなくてもスマホで映画を観られる。外出しにくい僕にとって有難いサービスだ。 ベッドで寝転びながら映画を観ていると、ランニングから帰ってきた先輩が部屋に入って来た。既にシャワーを浴びたようで、髪が少し濡れていた。 「あ、先輩お帰りなさい。朝からずっと走ってたんですか?」 「そうだ。……田賀、何を観てるんだ?」 「映画です。去年話題だったアクション映画ですよ」 先輩はジャージからTシャツに着替えながら言った。 「もしお前が良ければ、俺も一緒に観てもいいか?」 「え、いいですよ!隣どうぞ」 まさか先輩が一緒に映画を観たがるとは予想出来なかった。実を言うと、音が煩いと文句を言われると思っていたのだ。 先輩が僕の隣に座った。シャンプーと石鹸の香りが鼻腔をくすぐる。 二人で身を寄せるように、小さなスマホ画面に注目する。そんな不思議な空間を心地良いと感じた。 その日から休日は二人で映画を観ることが多くなったのだ。 全校から恐怖の象徴とされている鬼山先輩でも映画を観て涙くんだり、微笑むことがある。ホラー映画が苦手で、観た日は電気を消して眠れないこともある。 先輩にも人間らしくて、可愛らしい部分もあるのだ。それを知っているのは僕だけだ。 先輩はみんなが思っているような怖くて、冷たい人間じゃない。しかし何故か、この事実をみんなに知らせたくなかった。 自分の気持ちが理解出来ない。こんなことを馬瀬に相談する気にならなかった。

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