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第5話

僕は掃除が好きだ。特にトイレ掃除。学校の便所は汚れやすいので大変だが、やりがいを感じる。汚れていた場所が、自分の手によって綺麗になっていく様子はスカッとするのだ。 無心で床タイルをブラシで擦っていると、一緒に掃除をしていたクラスメイトが声をかけてきた。 「田賀って鬼山先輩と同室なのか?」 「そうだよ。どうかしたの?」 「ヤバイ不良だって聞いて前から心配だった。普段部屋でどう過ごしてるんだ?」 僕はデッキブラシをバケツに入れながら答えた。 「別に何ともないよ。噂に聞いてたより普通の人だったからね」 「そうなのか……。そういえば、先輩は普段どんな感じなんだろうな。やっぱり不良っぽいことするのかな」 言われてみて気付いたが、僕は先輩のことを殆ど知らない。 そういえば、不良と呼ばれている割に騒ぎを起こしていないな。 学校にいる間は何をしているのだろう。 どんな食べ物が好きなのかな。 勉強は得意なんだろうか。 ─どうしてあんな事件を起こしたのだろう。 「田賀、大変そうだな」 後ろで雑誌を読んでいた先輩が声をかけてきた。僕が机に向かってから3時間以上動かないことを気にかけているようだ。 「やっぱりオヅ高はレベル高いですね。さっぱり理解出来ません……」 僕はペンを手から離して突っ伏した。定期考査まで一週間を切ったというのに全く勉強が捗らない。 無茶して入学したせいか、授業のレベルが高い。このままでは落第してしまいそうだ。 「お前がよければ俺が教えようか?留年してるが一応二年生だからな」 「先輩は勉強しなくても大丈夫なんですか?」 「去年やった範囲だから大丈夫だ。勉強は苦手じゃねえから心配すんな」 先輩は椅子を僕の隣に運び、座った。 「あー数学か。基本問題からやってみるか」 「分かりました」 先輩がノートを覗き込む。二人の肩がぴったりとくっついた。 勉強を教えてもらいながら「先輩の指って意外と長いんだな」とか「先輩の字は右上がりなんだな」などどうでもいいことばかり気が向いてしまう。 その度に先輩に「ボケっとすんな」と怒られてしまった。 これから一週間、先輩に勉強を見てもらえるようになったがしっかり集中出来るだろうか。 夕食までの2時間たっぷり勉強した僕は、魂が抜けたように全身の力が抜けていた。 「お前、意外と集中力無いんだな」 「……すみません。次から気をつけます」 「別に怒ってねえよ。あ、そうだ」 先輩は突然立ち上がり、本棚に歩み寄った。そしてリングノートを取り出し、ページを破いた。 「目標が無いんじゃモチベーション上がらねえよな。ここに勉強が終わった後のご褒美でも書いたらどうだ」 僕は紙を受け取り、ペンを握る。少し考えた後、サラサラとペンを紙に走らせた。 そしてテープを紙に貼り、壁に固定させた。 先輩と映画を観たい 「先輩、これでいいですか?書いた後に聞くのおかしいですよね」 「俺は別にいいけど……。もっと楽しいことでもいいんだぞ」 勉強を教えてもらった上でこんなお願いをするのは図々しいことだと十分自覚している。 僕は頭を下げながら言った。 「僕は先輩と一緒に観るのが一番楽しいです。時間があるときでいいんです。無理言ってるのは分かってるので」 「そんなに頭下げるなよ。俺は楽しそうだからいいと思う」 「ありがとうございます!」 先輩は少し小さな声で言った。 「今日は頑張ったから、後でホラー映画観てもいい」

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