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第6話

午後11時を過ぎた頃から急に風が強くなった。外に見える木は絶えず揺れている。窓が時折ガタガタと音を立てて震えた。 外から唸り声のような風音が聞こえるたびに先輩は身を縮ませた。 「先輩、大丈夫ですか?無理させてすみませんでした……」 「謝るなよ。俺がいいって言ったんだから」 先輩は映画を観終わってから僕のそばを離れようとしない。 今日選んだ映画はホラー慣れしている僕でも怖かった。先輩がここまで風の音に驚くのは無理もないだろう。 「……田賀、情け無いこと頼んでもいいか?」 今日は先輩にとても良くしてもらったのだ。せめてもの礼儀だ。僕はどんな願い事でも叶えようと思う。 「何でしょう?」 「今日だけでもいい。お前のベッドで寝てもいいか……?」 ─え、それって同じベッドで寝るってこと? 「やっぱり嫌だよな。変なこと頼んでごめん。おやすみ」 先輩は電気を消そうとする。僕は考えるよりも先に彼の腕を掴んだ。 「全然嫌じゃない。一緒に寝ましょう。僕は先輩と寝たいです」 言葉に出してから気付いたが、僕はとんでもない台詞を吐いたかもしれない。顔の温度が一瞬で上がるのを感じる。 恐る恐る先輩の顔を見た。 先輩は微笑わらっていた。 「ありがとう。寝ようか」 シングルベッドは男二人で寝るには少し狭かった。 僕の体に先輩の脚や腕が触れる。二人分の温もりを包んだ掛布団は、ぬるま湯風呂の様に心地よい。 眠りかけの耳に先輩の声が入る。 「明日は図書室で勉強しないか?」 首すじに先輩の吐息が微かにかかる。 「そうですね」 もっと話したかったが、口と脳が動かない。返事をした瞬間、僕は微睡みの中へ落ちた。

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