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第8話

年に数回、どうしても眠れない日があるだろう。そんな時は高ぶった精神が治まるのを待つしかない。 コーヒーのせいか昼寝のせいか。 僕は今晩だけでも、数え切れないほどの寝返りをうった。目を瞑っても眠気がやって来ない。どんどん冴えているような気がする。 明日は朝から体育があるんだ。寝不足のまま臨むと痛い目に遭うだろう。 闇に慣れた目で天井のシミを数えていると、床の軋む音がした。 音のする方を確認するために眼球だけ動かす。 人影が見える。よく見ると、先輩がベッドから出ていた。 声をかけようか悩んでいたら、彼はそのまま忍び足で外へ出て行ってしまった。 枕元の目覚まし時計を見る。午後2時を回っていた。消灯時間はとうに過ぎている。 ─何かがおかしい。 先輩は夜中にトイレに行きたくなり、目を覚ますと、僕を申し訳なさそうに起こす。そんな彼が一人でどこへ行くのだろう。説明し難い胸騒ぎに襲われる。 僕は先輩の後を追うようにして部屋を出た。 夜中の寮は昼間と全く違った表情を見せる。 こんな古い建物だ。幽霊が出ても全く違和感が無い。 傷んだ木製の床を軋ませないように、一歩一歩慎重に歩いた。先輩は急ぎ足で廊下の奥へ進んで行く。 彼は突然部屋の前で足を止めた。そしてドアを数回ノックするとそのまま入っていった。 先輩が入った部屋は、現在使われていない物置きじゃないか。こんな時間にどうしてだろう。 四つん這いで部屋に近づく。時間をかけてドアの前に到着した。そのまま耳を扉につける。 しかし何も聞こえない。たまに先輩のため息らしき声がするが、それ以上は分からなかった。 このままここにいたら、先輩と顔を合わせてしまうかもしれない。僕はそそくさと退散した。

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