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受愛
社長に促され病室内に入る。入れ違いに太宰の様子を見て居たであろう与謝野先生が立ち上がり、社長と共に部屋を後にする。
生気の無い蒼白い顔色は元からだったが、こうして寝台に横たわり目を閉じて居る姿は本物の死体と対面しているかの様にも見えて仕舞う。
細い指先をそっと握り込む。未だ指先は冷たく、辛うじて弾力が残って居る事だけが太宰が生きて居るという事を教えて呉れる。
「貴様の選択肢に、俺との未来は存在して居ないのか……」
ゆっくりと其の指先が動いて握り返して来る。視線を送れば唯呆けて天井を見やる太宰の顔が有った。
「――国木田、君」
声が少し掠れて居る。河の水を飲んだ所為だろう。陶器の様に冷たい手を両手で握り込み自らの頬に寄せる。俺は自分自身が泣いて居る事に気付いた。
「国木田君、泣いて居るのかい?」
「もっと……」
もっと俺の名前を呼んで欲しい。何度でも。俺を呼ぶ太宰の声が欲しい。決して手に入らないと解って居ながらも、如何しても手に入れたい。太宰の凡てを。
「国木田君、泣かないで呉れ給えよ……」
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