5 / 6

雛愛

 あの入水の日から、太宰は変わった。何がどのように変わったかは筆舌に尽くし難いが、具体的には片時も俺の傍から離れない。常に肩が触れ合う程の距離を保ち、気付けば俺の顔色を窺って居る――様に、見える。  「懐かれた」等と云って乱歩さんには揶揄われるが、中々悪い気はしない。 「――太宰」 「何だい? 国木田君」  単なる呼び掛けに対しても煌々と羨望にも似た眼差しを向けて来る。仕事をして欲しいと願うものだが、今は太宰の視線を引き付けられて居る事だけで満足が出来て仕舞う。此処が探偵社で無ければ今直ぐにでも此の両腕に掻き抱きたいものだが、生憎太宰から正式な返答は得られて居ない儘だった。順序は守らなければ為らない。 「昼飯は何を食べたい?」 「蟹」 「蟹飯か、では外に行く事にするか」  普段通りの外出であっても、此の時ばかりは胸が高鳴る。逢瀬という物か。手を繋いでも厭がられないだろうか。  俺がこんなに悩んで居るのにも関わらず、太宰は意図も簡単に腕を絡ませて来る。 ――太宰はお前自身を見て居ない。  不意に、乱歩さんの忠告が頭の中に過ぎった。

ともだちにシェアしよう!