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第4話

「どれも美味しかったな。もちろんデザートが一番美味しかったけど」  食後のエスプレッソを飲み干すと、治也はホールのスタッフに、芹沢(せりざわ)優斗(ゆうと)さんを呼んでもらえますか? と声をかけた。  しばらくして、優斗が治也と翔太のテーブルに姿を見せた。 「お待たせしました。パティシエの芹沢です……え? 治也!?」  兄は恋人に来ることを伝えていなかったようで、テーブルにいるのが治也なのを知ると、優斗はかなり驚いていたようだった。 「こいつが弟の翔太。この間会わせられなかったから」  長い睫に、白い肌。紅く染まった頬に、潤んだ唇。吸い込まれそうな漆黒の瞳と目があった瞬間、身体が業火に焼かれているような錯覚を起こした。 「は、じめまして……芹沢……ゆ……っ」  翔太に挨拶をしようとした優斗の異変を察知し、すぐに治也が席を立った。 「どうした? 優斗、大丈夫か? ……悪い、翔太。ちょっと席を外す。金はあとで払っておくから、また今度な。……優斗、ゆっくり息を吸って……」  優斗の背中をさすりながら、トイレに向かう治也を見送りながら、翔太は動けずにいた。  ーー心臓が鷲掴みにされたように痛い。  額には嫌な汗が滲む。  授業で聞いたことがある。アルファとオメガの間にのみ存在する、番。その中でも本能で繋がる、抗えない『運命の番』  お互いの気持ちなど関係なく、繁殖行為のために、出会った瞬間、発情する。  兄が恋人と番になるまでは、二度と彼とは会ってはいけない。もし会ってしまったら、その時は……。続きを考え、払拭するために頭を振る。翔太は熱い身体が鎮まるのを待たずに、逃げるように立ち去った。  兄の恋人が、運命の番ーー。  残酷な結びつきが、翔太を苦しめる。

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