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第5話
自宅に帰った翔太は、バスルームに駆け込んだ。
服を脱ぎ捨て、水道の蛇口を捻りシャワーを頭から浴びる。
冷たい水でも、翔太の熱を取り除いてはくれない。
アルファの発情を促すオメガの甘い香り。そんなものが自分を惑わせるなど、さっきまでは思ってもみなかった。
身体が熱い。
熱を持ち、頭をもたげた自分の起立を、何度も扱く。
翔太の頭の中を独占するのは、優斗の姿だ。
オメガに、ただの道具のオメガなんかに惑わされてはいけない。脳裏に浮かぶ優斗の姿を、何度も掻き消そうとする。しかし、忘れようとすればするほど、意に反して身体が熱を持つ。
「なん……で……」
兄の恋人でなければ、手っ取り早く交わってしまえばいい。しかし、その方法が許容されない今、自分でこの熱を何とかするしかない。
「くっ…………」
鈴口から大量の精液が放出され、シャワーの水と交わり、排水口へと流れ込んで行く。
一抹の虚しさだけが、翔太を襲った。
「喜べ! 来月は翔太の誕生日がある! お祝いするぞ」
翔太と優斗の顔合わせが失敗に終わった一週間後、久し振りに帰宅するなり、何を言い出すかと思ったら、翔太の誕生日祝いをするという宣言だった。
「今更……」
リビングで文庫本を読んでいた翔太は、やや呆れた面持ちで、治也に視線を送った。
佐久間家は父と兄と翔太の三人家族だ。元々体が弱かった母は翔太を産んですぐに亡くなったため、翔太には母親の記憶は一切ない。
誕生日のお祝いは忙しい父は抜きで、毎年兄と二人でやっていることだ。特に珍しいイベントでもないのに、今回はどういうわけか気合いの入れ方が違う。
「ふっふっふっ。楽しみにしていろよ、翔太! サプライズだ、サプライズ!」
期末試験の日程と重なる自分の誕生日に、何を企んでいるのかは知ったことではないが、サプライズと本人に伝えてしまっては、全然サプライズにならないのを頭の良い兄はわかっているのだろうか。
「わかりました。楽しみにしています」
兄のサプライズが、自分達兄弟の運命を狂わせることなど、この時、想像していなかった。
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