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第9話

 優斗の所在が掴めなくなり、ちょうど二週間か経とうとしていた。  翔太は夏休みに入り、学校から出た大量の宿題を早々に片付けるべく、リビングの一角にある机に向かっていた。  兄は落ち着かない様子で、自分の部屋とリビングを行き来し、何度も電話をしては応答する声はなく、ため息を繰り返し、夕方には優斗のマンションに戻って行く。そんな毎日を送っているようだった。  今日も例に違わず、同じ行動をし、ついさっき家を出て行ったばかりだった。  家の固定電話が着信を告げる。  翔太は少し咳をし受話器を上げた。 「はい。佐久間です」 「……………………」  無言電話かと疑い始めた頃、相手が芹沢です、と短く名乗った。 「芹沢さん……兄ならあなたのマンションに……」 「きみに用事があって、電話しました。今後のことで、どうしても伝えたいことがあります。今度の土曜日どこかで会えますか? 治也には内密にお願いします…………」  優斗の声は固かった。  メモを読み上げているような、抑揚のない声。 「……わかりました」  待ち合わせに自宅からも高校からも離れた場所を指定し、受話器を下ろした。  手には汗が滲んでいた。 「翔太に何で優斗から電話が……」  忘れ物をして戻ってきた治也は、リビングの扉の前で、電話の一部始終を聞いていた。 「今度の土曜日……」  待ち合わせ場所も、時間もすべて記憶し、治也はその場から姿を消した。

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