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第10話

 待ち合わせ場所に、時間通りに現れた優斗は、うなじの痕を隠すために、首にスカーフを巻いていた。  オープンテラスのカフェ。すぐ近くを運河が流れ、運河の対岸には高層ビルが建ち並ぶ。  ちょうどランチタイムの喧騒で、深刻な話をしていても、それを周りの人間が気に留めることはない。 「治也とは……別れます」  優斗は膝に置いていた、拳をより強く握りしめた。 「番になれなくなった私に、もう価値はない……」  泣くのを堪えているようだった。涙が零れそうになり、優斗はきゅっと唇を噛んだ。 「治也と一緒に過ごした時間は、とても幸せでした。その思い出だけで、十分生きていける……。だから、番の解消をお願いします」  兄に内緒で呼び出された時点で、分かっていたことだが、番になったのは、幻覚でも夢でもなかった。  番の解消方法は二つ。  ひとつは、アルファからオメガに番の解消を伝えること。アルファは新しく番を作れるのに対し、オメガは一生誰とも番になることは出来ない上に、しかも発情期は今まで通りやってくる。番解消後のオメガの生存率はかなり悪いと聞く。  もうひとつは、番の片方が死ぬこと。死ぬと同時に、番は解消され、残されたアルファやオメガは新しい番を作ることが出来る。  優斗が依頼した番の解消は前者だ。 「悪いのは……すべて私です。兄には折を見て話します。なので……番の解消は、今は出来ません」  優斗の背後のテーブル席に背中合わせに座っていた男が立ち上がった。  ゆっくりと振り向いたその男は兄だった……。 「翔太と優斗が番? ……嗤わせるな!」 「兄さん!」  尾行されていた? いや、店に着いた時には、既にその位置に人が座っていた。途中で人が変わったりもしていない。 「翔太、場所を変える。出ろ」  治也は軽蔑の眼差しを翔太に向けた。  生まれて初めてみる、冷たい瞳だった。

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