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第12話
翔太を助けたのは通行人だった。
後で聞いたところによると、恐らく手際の良さから、医者か看護師だったのではないかとのことだった。
救急隊員にしっかり引き継ぎ、名前を名乗ることもなく、足早に去っていったという。
病院で念のため受けた検査も特に異常はなく、帰宅していいと言われた翔太は、悩んだ末優斗と会ったカフェの近くの公園に向かった。
日が落ちて、街灯がほの暗く照らす公園は薄気味悪く、誰もいなかった。
ベンチに座り、昼間の事を一つずつ丁寧に思い返す。
優斗は、泣かなかった。
泣きそうになっていたのを懸命に我慢し、これから一人で頑張ろうとしていた。
一人で頑張る。綺麗事だ。
アルファに番を解消されたオメガの末路は、ほとんどが同じだ。
オメガはアルファの道具だから、使い捨ての雑巾と同じだと、翔太はずっと思い込んで生きてきた。
『否』
思い出せない続きの言葉。
曾祖父は、本当は何を伝えたかったのだろう。
「翔太……くん?」
か細い声が耳に届いた。
公園に影を落としたのは、優斗だった。
「芹沢さんが、何でここに……」
思わず立ち上がって、優斗に駆け寄る。
翔太より十センチほど身長の低い優斗が、翔太を見上げる。
「治也が、翔太くんを川に突き落としたって聞いて。……心配になって」
予期しない言葉に、翔太は戸惑った。
「心配? あなたはどうしようもない馬鹿だ! 好きでもない相手の番にさせられて、……私が死ねば、あなたは自由だったのに…………こうして生きてる」
優斗からすると、翔太が死ななかったのは残念な結末のはずだ。
「馬鹿はどっち? 死んでいい人間なんてどこにもいない」
優斗の潤んだ瞳が街灯に照らされる。
「翔太くんが生きててくれて、本当に良かっ…………」
最後まで優斗が話し終わる前に、その唇が翔太に塞がれた。
先日の口づけとは違い、とても優しいものだった。名残惜しそうに唇を離すと、翔太は一言だけ、言葉を紡いだ。
「あなたとの番は、解消しません」
優斗は、何かを決意したように首肯した。
そして、優斗の姿を映す翔太の瞳には、迷いはなかった。
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