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第15話

「お忙しい中、緊急招集にご対応いただきありがとうございます」  紘一の表情は、校門で立っていた時とは違い、かなり曇っていた。 「来週、全校生徒に向けて、次期生徒会の候補者を発表するにあたり、どうしても皆さんに最終確認させていただきたい事項があります。……実は毎年必ず議題に上がる、オメガの発情時の対応についてです。今期は試験的に生徒会ではなく、先生方が対応に当たってくださっていましたが、来期は従来通り、生徒会で行うことになりました。つきましては、その業務に従事したくない、という方は大変申し訳ありませんが、立候補を取り下げていただきたいと思っています」  紘一の言葉に、候補者達は、口々に不満を漏らす。 「オメガの発情とか対応させられて、間違いが起こって人生狂ったら、どう責任取ってくれるんですか!」 「アルファがオメガの発情の時に近づくなんて無謀です!!」 「来期も先生達にやってもらいましょうよ」  進んでやりたい人間は、一人もいないようだ。  翔太自身も、最近まではその候補者と同意見だった。しかし、今となっては、優斗以外のオメガが発情したところで、何の影響もない。  結局、最終的に立候補を断念した人は一人もいなかった。生徒会役員になるのは、オメガの発情の対応という最大のデメリットを差し引いても、価値があるのだ。  来期の生徒会長と副会長は、今期の生徒会長からの任命制だ。よって、生徒会長は引き続き結城紘一が続投し、副会長は、新しく高瀬(たかせ)という男が務めることが決まっていた。その高瀬が、極秘と書かれた一枚の紙を候補者達に配る。 「…………では、ここからが本題です」  表情が晴れることがないまま、紘一は重い口を開く。  翔太は紙に書かれていた内容に、我が目を疑った。 「皆さんにお渡しした資料は、生徒会が独自で調査したものです。今期の退学者は全学年合わせて十人。そのうち九人が、……オメガです。そして退学理由が全員、懐妊でした。それ自体はおめでたいことです。しかし……」  紘一は怒りに震えていた。 「全員が校内で発情した際にアルファに襲われた、被害者なのです。……ただ、そのアルファが誰なのか、突き止めることが出来ませんでした。発情時のオメガの懐妊率は百パーセントと言われています。現生徒会の総意として、これ以上被害者を出すわけにはいかない。次期生徒会でも引き続き、対策は行います。皆さんには、決意を持って選挙に望んでいただきたい」  心が騒いだ。気になるフレーズが、紘一の言葉には潜んでいた。しかし、翔太はそれを自分に置き換えて、想像することをしなかった。  立候補者全員が生徒会役員になれるわけではないが、アルファとしての誇りを持っている立候補者達は、生徒会に例え入れなかったとしても、協力を惜しまないだろう。

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