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第16話
生徒会候補者演説の当日。そして、優斗と毎晩電話をするようになって五十日目の朝。珍しく優斗から電話がかかってきた。
「今日、生徒会の選挙演説だった……よね……」
体調が悪いのか、優斗の息が多少荒く感じた。
「はい。午後からの二時間、演説と投票があります」
「頑張っ……てね」
途切れ途切れの優斗の声に、不安を覚える。
「ありがとうございます。……優斗さん、大丈夫ですか?」
「うん……。……大丈夫。じゃあ、いってらっしゃい」
かなり無理をしているような気がした。学校が終わったら必ず連絡しようと決め、電話を切った。
候補者一人ずつ、体育館のステージに上がり、演説を行う。持ち時間は、一人当たり五分と決められていた。各々がマニフェストを公言し、制限時間いっぱい思いの丈をぶつけていた。
翔太の順番は最後で、人の演説を聞き流しながら、考えてきた内容を頭の中で反芻していた。集中力を高めるのを邪魔するように、ズボンのポケットに入れている携帯が振動した。候補者は、全校生徒と対面するようにパイプ椅子に着席しており、携帯を確認することができない。切れては、またかかってくるのを五回ほど繰り返し、相手はようやく諦めたのか、やがて振動が止まった。
全員の演説が終わり、あとは教室に戻り投票を行うだけになった。体育館に集まっていた生徒達が教室に戻る間、翔太は人目につかない場所で携帯を確認した。
知らない番号から着信が入っており、留守電のマークがディスプレイに表示されていた。
留守電を再生する。
「凛成館 大学病院の医師の本城 と申します。佐久間翔太さんにご連絡しております。大変お手数をお掛けしますが、折り返しご連絡をお願いいたします。電話番号は……」
持病があり、通院しているわけでもない。一度も受診したことがない病院からの連絡。胸騒ぎがした。
震える指先で、医師が留守電に残した番号をダイヤルした。
数回の呼び出し音の後、録音されていた声と同じ、低音の声が応答した。
「はい。本城です」
「先程、お電話をいただいた、佐久間と申します」
「ご連絡ありがとうございます。早速用件ですが、芹沢優斗さんの病状をご家族の方に説明をしたいのですが、今日こちらに来ていただくことは可能でしょうか?」
「優斗さんの……病状? 何かの病気なんでしょうか?」
今朝は確かに体調が悪そうだった。だから、病院に行ったのだろう。けれど、医師からわざわざ呼ばれるほど、重病なのだろうか。
「詳しい話は、こちらに来られてから……」
医師は言葉を濁した。
「わかりました。十六時までには伺います」
翔太は腕時計に目をやると、学校が終わってその後病院に行くまでにかかる時間を概算する。
時計は十四時を指し示していた。
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