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第22話

 入場ゲート近くで困り果てていた中学生に見覚えがあり、翔太は足を止めた。 「この間はありがとうございました」  今にも泣きだしそうな表情をしていた中学生は、翔太の顔を見るなり、安堵の表情をした。 「あ、あの! 紘兄(こうにい)……あ、えーと。結城紘一に会いたいんですけど、どこに行けば会えますか?」 「良かったら、会長のところまで、私が案内しますよ」 「はい! お願いします!」  とびきりの笑顔につられて、翔太も思わず笑顔になった。  生徒会長の幼なじみだと言う中学生は、沢圦(さわいり)(そう)と名乗った。今日は紘一に内緒で来て、驚かせようと画策したものの、人集りと広さで、どうしようか途方に暮れていたらしい。  紘一の姿が見えた途端、蒼は更に嬉しそうな表情になった。 「紘兄!」  遠くから呼ばれ、紘一が周りを見渡す。  蒼の姿を見るなり、紘一は急いで駆け寄ってくる。 「蒼! 来るなら言ってくれれば迎えに行ったのに」 「紘兄のこと、驚かせたかったんだ。結局どこにいるか分からなくて、連れてきてもらったんだけど……」  頬を紅く染めながら、恥ずかしそうに紘一に報告する。 「佐久間、蒼を連れてきてくれてありがとう」  紘一から感謝の言葉を述べられ、翔太も頭を下げた。  紘一と蒼を見送った後、翔太は一人で展示を回ることにした。  しばらくして、ふわりと、よく知っている香りが、鼻腔をくすぐった。  優斗が発情した時の香りだ。 「なんで……」  背筋が凍る。発情期はつい最近終わったはずだ。  そして何より、文化祭に来ることを断ったはずの優斗が近くにいて、発情しているということだ。 「どこにいるんだ……」  見渡しても、匂いの発生源はわからない。  優斗の香りは番の自分にしかわからない。他の誰かに協力してもらうことも難しい。  翔太は香りの強くなる方向へと、全速力で走った。

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