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第25話
椎名が去った後、優斗の匂いがすっと消えた。どうやら一過性の効果しかなかったようだ。
翔太は制服の袖で額の汗を拭い、優斗の前に跪くと無言で拘束を解く。
「翔太……くん……ごめ……」
優斗が謝罪の言葉を述べる前に、翔太が優斗を抱きしめた。
「心臓が止まるかと思いました……。間に合って、良かった」
翔太はまだ肩で息をしている。優斗は自分を汗だくで捜してくれたことを心の中で感謝し、翔太の胸で、安堵の涙を静かに流した。
優斗の髪を撫でながら、優斗が落ち着くのを待った。
「まだまだ私は半人前です。けれど、いずれはあなたの番として相応しい人間になりたいと思っています。だから…………」
優斗が顔を上げた。
長い睫毛に漆黒の瞳。初めて会った日から、きっと運命には抗えなかった。
「……あなたを……」
優斗はまばたきもせずに、翔太の言葉を待った。
「好きになっても良いですか?」
我ながら狡い言葉だと思った。優斗に自分と兄のどちらを選ぶのか、暗に最終決断を迫ったのだ。兄を選ぶなら、答えはノーだ。
優斗は戸惑ったように視線を泳がせ、やがて瞼を閉じた。
そのまま眠ってしまったのではないかと思うほどの時間が経過した後、優斗がやっとで目を開けた。
「…………一生そばにいてくれると約束してくれるなら…………喜んで、お受けします」
優斗がふわりと微笑んだ。
優斗の笑顔に、思わず翔太も顔を綻ばせた。
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