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第26話
ベータだと思われていた椎名が、実はアルファで、オメガの生徒を襲っていた。その事実は瞬く間に学校中に広まった。
椎名はすぐに懲戒処分となったが、生徒の教師への信頼は地に落ち、生徒会は生徒と教師の仲裁役として、多忙の日々を送っていた。毎日授業が終わると、生徒会室へ集合し、今後の対策と再発防止策の検討を行う。
異常なまでの忙しさの中でも、優斗がそばにいてくれるから頑張ろう、と思える程の心境の変化が訪れるくらいの月日が経ち、曾祖父の屋敷で一緒に暮らし始めた。
いってきます、と言って家を出る翔太に、いってらっしゃい、と返す優斗の光景が当たり前の日常になった頃、高校生活二度目の文化祭が差し迫っていた。
「あれ? 腕時計がない……」
最近失せものが増えた気がする。いつも置いてある場所から、いつの間にか物がなくなっている。最初はどこか別の場所に置いてしまったのかと思っていたが、ここ二・三日なくなるものの量が増えた気がする。ワイシャツやネクタイが少しずつ、押し入れの中から減ってきている。
「仕方ない。今日は腕時計なしで行くしかないか……」
いつもは早起きな優斗が、今日は起きてこない。
優斗が寝室として使用している部屋の襖を、そっと開ける。
部屋は、ほんのり甘い香りが漂っていた。部屋の中央に引かれた布団の上は不自然に盛り上がり、優斗を起こさないように、そっと部屋へと足を踏み入れた。
「なるほど……失せものはここにありましたか……」
掛け布団以外に、ワイシャツや秋物のコートなど、翔太が普段着ているものや身につけている小物までが、優斗の周りを取り囲んでいた。アルファの匂いがあるものを近くに置くのは、発情期が近いオメガの習性だと、小耳に挟んだことがある。
「今日は出来るだけ早く帰ってきますね」
今日は放課後、文化祭の実行委員会が予定されているが、その後はすぐに帰って来ようと心の中で誓い、破顔した。
布団の横に足を折って座ると、規則正しく寝息をたてて眠っている優斗の左頬に、唇を落とした。
「いってきます」
襖の閉まる音がした後、優斗が目を開けた。
左頬を指先で覆うと、顔を紅く染めた。近くにある翔太のワイシャツに顔を埋め、早く帰ってきて、と呟いた。
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