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第27話
放課後、文化祭実行委員会が生徒会室で開かれた。終盤に差し掛かった頃、実行委員の一年の発言に、翔太は手に持っていた資料から視線を上げた。
「あの! 文化祭のジンクスって本当ですか?」
その質問にチクリと心が痛む。
「文化祭の期間中に告白が成功したら、そのカップルは永遠に結ばれる、という話です」
紘一が首を傾げたので、すかさずフォローをする。
治也と優斗は秀英高校の卒業生だ。高校三年の文化祭に、治也が優斗に告白し付き合うことになった。それは当時小学生だった翔太に、兄が嬉々として話したのをよく覚えている。
永遠の幸せを手に入れたはずの優斗を、兄から引き離したのは自分自身だ。今、優斗は少しでも幸せだと感じてくれているだろうか。今朝、翔太の服に囲まれて眠っていた優斗を思い出し、翔太の心は凪いだ。
翔太は実行委員会後、早々に業務を切り上げ、昇降口に向かった。
「やめてください!!」
悲鳴にも似た声に聞き覚えがあり、足を止めた。
「ちょっとぐらい良いだろ、沢圦」
沢圦という苗字はとても珍しく、さっきの声は沢圦蒼の声だと確信した。
紘一の幼なじみの蒼は、今年の春に秀英高校の一年生となった。そして紘一の片想いの相手ということを、生徒会の役員全員が知ることになったのは、入学してすぐだった。
翔太にとって紘一は憧れの人であり、蒼は恩人だ。アルファとベータだが、二人には幸せになってほしいとの想いがある。
その二人の仲を引き裂くような人物は、許しておけない。
美術室の扉を勢い良く開く。案の定そこには円らな目いっぱいに涙を溜めた蒼と、四月に赴任して来たばかりの美術部の顧問がいた。
「沢圦くん、会長が呼んでいましたよ」
冷ややかな声が出た。何か理由をつけて、この場から蒼を連れ出さなくてはいけない。その一心で嘘を吐いた。
「は、はい! すぐ行きます!」
蒼は崩れた制服を整えると、鞄を手に取り翔太に駆け寄った。自分の後ろに蒼を隠すと、冷たい視線を向ける。
「では、先生。私たちは失礼します」
会釈をし、開けたときと同様に勢い良く扉を閉めた。
生徒会までの道中、蒼は翔太のブレザーの右袖を左手でぎゅっと握っていた。余程怖かったのだろう。
「あの、……ありがとうございました。助かりました」
蒼は自分のブレザーの右袖で涙をゴシゴシと拭くと、翔太に深々と頭を下げた。
「いえ、何もなくて良かった。……あなたは、今後出来るだけ会長と一緒にいた方がいい」
教師である椎名の一件があったのは、一年ほど前だ。一年生の中にはその事件自体を知らない者もいて、最近は風化しつつある。ベータの教師だと言っても油断は出来ないのだ。
生徒会室の中からは、まだ光が漏れていた。会長の紘一がまだ室内にいることに、翔太は安心した。
生徒会室の扉を開く。
「あれ? 佐久間お前帰ったんじゃ……。ん? 蒼?」
生徒会室にいたのは紘一だけだった。蒼の存在に気づき入口まで来た紘一に、翔太は蒼に聞こえないように耳打ちする。
「朝の挨拶、会長の当番の日は、私が引き受けます。なので会長は出来るだけ沢圦くんと一緒に登下校してください。……それから、美術部の顧問にはくれぐれも注意してください」
恐らくそれだけで、紘一には伝わるだろうと、端的に伝えた。
紘一の当番は月・水・金、自分の当番は火・木だ。毎日挨拶運動で早朝から校門に立つことになるが、二人のためなら仕方がない。
翔太はそっと生徒会室の扉を外から閉め、帰路を急いだ。
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