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第28話

 急ぎ足から徐々に早くなり、家に辿り着いたころには駆け足になっていた。  玄関を開けると、どこかしこから甘い匂いが漂っていた。優斗が発情期に入ったのだ。  早くこの手で優斗を抱きしめたい。  広い三和土で革靴を脱ぎ捨て、優斗の寝室に急ぐ。 「優斗さん」  名を呼びながら、襖を開けると、朝よりも大きな塊となった布団が動いた。 「翔太……くん」  大きな塊の中から外へ、優斗が這いだすと、所在なさ気に座り、潤んだ瞳で翔太を見つめた。  翔太が優斗の頬に右手を差し伸べたとき、優斗の顔色が一瞬で変わった。 「触らないでっ!」  手を振り払われ呆然とする翔太に、優斗は潤んだ瞳のまま、消え入りそうな声で囁いた。 「僕以外のオメガの匂いがする……」  以前、発情したオメガの対応をした日、帰ってきた時に、優斗が少し嫌な顔をした。それを翔太は見逃さなかった。それ以来、オメガの対応をした後は学校でシャワーを浴び、制服に消臭スプレーを大量に撒き、匂い対策は問題なかったはずだ。  しかも今日は、発情したオメガとの接触どころか、オメガとの接触も、一度もなかった。 「優斗さん、気のせいです!」  誤解を何度解こうとしても、優斗は聞く耳を持たない。 「嫌だ、嫌だ……」  両手で耳を塞ぎ、頭を振る。  翔太自身は、優斗以外のオメガの匂いは分からない。どこに匂いがついているのか、原因が特定出来ないまま、匂いを洗い流そうと、風呂場に急いだ。脱いだ制服には念入りに消臭スプレーを撒く。  急いでいるときに、呑気に風呂を沸かすわけにもいかず、頭からつま先まで隅々まで洗うと、冷水で洗い流した。古民家の不便さを再確認した。  すでに気候は秋で、寒さに震え上がる。  髪と身体からざっと水分を拭き取ると、ドライヤーを強にして、髪を乾かす。  その間、ものの十分ほどだ。それくらい急いで優斗の元へ戻ると、優斗はまた塊の中へと姿を消していた。 「優斗さん。さっきはすみませんでした。出てきてください」  ラフな格好で戻ってきた翔太は、塊に向けて言葉をかける。 「翔太くん」  もぞもぞと這いだしてきた優斗は、潤んだ瞳と、潤いのある唇で翔太を誘う。  操られているのはアルファなのではないか、そんな想いが翔太を支配する。この際、優斗の操り人形になったって構わない。自分の中で、優斗の存在が大きくなりつつあるのを肌で感じ、優斗の頬に触れた。

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