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第30話

 二年目の文化祭当日。  今朝、優斗と少しだけ口論になった。  文化祭に来たいと言う優斗の願いを、駄目だと強く突っ撥ねた。  昨年、椎名に危険な目に遭わされ、今年は美術部の顧問という危険人物がいる。出来るだけ危険なものから遠ざけたい一心で、少々ムキになってしまった。  未だに美術部顧問の処分を出来ずにいるのは、学校の隠蔽体質のせいだ。昨年に引き続き、今年も教師が問題を起こしたとなると、ダメージを受けるのは可避できないだろう。  気まずい雰囲気の中、いってきますと言ったが、お見送りもなければ、いってらっしゃいの言葉もなく、帰ったら謝ろうと翔太は肩を落とし、学校へ向かった。 「おはようございます」  現生徒会も、文化祭が終わったら解散だ。挨拶運動に紘一の代わりに校門に立つのも、残りは片手で足りるぐらいの回数だ。 「佐久間先輩、おはようございます!」 「おはよう。佐久間」  仲良く並んで登校してきたのは、紘一と蒼だった。  毎日仲睦まじく登校してくる二人は、端から見たら相思相愛だ。しかし二人は付き合っている訳ではない。文化祭期間中に告白する、と紘一から聞かされている身としては、ただただ告白の成功を祈るばかりだ。  翔太は教室棟を紘一と並んで巡回していた。  携帯が着信を告げる。バイブにするのを忘れていたせいで、無機質な音が鳴り響いた。授業中だったら即没収の失態だ。  相手は今朝、険悪なムードになってしまった優斗からで、翔太は一度紘一に会釈をすると、慌てて通話ボタンを押した。 「はい」 「優斗です。今、学校の前にいて……」 「…………え? 学校に来てる?」 「うん。……今朝のこと、謝りたくて」 「そこから動かないでください! すぐ行きますから!」  電話を切ると、すぐに紘一に巡回から抜ける許可をもらい、校門まで急いだ。 「忙しいのにゴメンね」  翔太が現れると、遠巻きに優斗のことを見ていた生徒たちが、逃げるように去っていった。 「いえ。今朝はすみませんでした。あなたのことになると、少し余裕がなくなるみたいで……」 「え?」  優斗が聞き返したが、翔太は気まずそうに赤面し、咳払いした。 「……あまり詳細はお伝え出来ないのですが、学校内の治安があまり良くないので、優斗さんを去年みたいに嫌な目に合わせたくありませんでした……頭ごなしに拒否してしまって、本当にすみませんでした」  丁寧に一礼する翔太に、優斗は両手を振る。 「ううん。僕の方こそゴメンね……。変に勘ぐってしまってたみたいで……」  オメガの匂いを付けて帰って来た日、優斗は他の誰かと浮気しているのではないかと、心中穏やかではなかった。それは杞憂だったようだ。  二人が交互に今朝は悪かったと言い合っているところに、生徒会副会長の高瀬が、血相を変えて走ってきた。 「おい!! 佐久間探したぞ! 大変だ。オメガの匂いが!」  かなりの時間探していたのだろう、高瀬は汗だくで息も上がっていた。 「場所はどこです!?」 「二年三組だ」  紘一と別れた場所が、二年三組の近くだった。紘一が巻き込まれていなければ良いと願いながら、一抹の不安を覚えながら優斗に向き直る。 「優斗さんを、このままここに残しておくわけにはいきません。すみませんが、私と一緒に来てください」  そう伝えると、優斗の返事を待たずに手を繋ぎ、二年三組へと向かった。

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