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第31話 -優斗編-

 二年三組に近づくにつれ、オメガの匂いが強くなる。匂いが強くなるごとに、優斗の鼓動が早くなっていた。つい最近、翔太に付着していた匂いと同じものだ。浮気を疑った匂いの主が、すぐ近くにいることに、額に嫌な汗が滲む。  二年三組の周りは人が集まっていたが、高瀬と翔太の二人で人払いをし、高瀬は教室の外で待機し、翔太と二人やっとの思いで教室に足を踏み入れた。  教室の隅にいた二人のうち一人は、見覚えがあった。昨年の文化祭で、とてもにこやかに翔太が接していた相手。まだあどけなさが残る少年は、少し疲れた表情で、静かに眠っていた。  彼がオメガで、匂いの発生源なのはすぐにわかった。  自分から翔太を盗ろうとしている憎きオメガ。そして、そのオメガが他の生徒とも関係を結んでいることに、強い憤りを覚えた。  翔太の表情を盗み見ると、喜怒哀楽の判別が難しい複雑な表情をしていた。 『会長の結城紘一君、至急職員室まで来てください』  校内アナウンスが流れた。 「会長、ここは私達に任せてください。オメガは外部の人間だった、と報告をお願いします。ちゃんと制服を着て、髪を整えて……」  急かすように、翔太が長身の少年に声をかける。  会長、と呼ばれた少年はのそりと立ちあがり、翔太と自分に頭を下げ、身なりと髪を整え、教室を出て行った。 「優斗さん、すみませんがここで彼のそばにいてあげてください。私は色々と処置用の準備をしてきます」  優斗が頷くと、翔太は足早に教室を出て行った。鍵が施錠される音が聞こえたのとほぼ同時に、眠っていた彼が目を覚ました。 「ん……ぅ……だ……れ? こうにい……は?」  舌足らずな少年に自分のことは語らず、恐らく気になっているのは、先程一緒にいた彼の事だろうと察し、応答した。 「一緒にいた彼なら、職員室に行きました」  目を擦りながら、上半身を起こす。彼の下半身に被せられた制服のブレザーの隙間から見えたのは、後孔から溢れる白濁の液だった。さっきの生徒の子供を妊娠したら、きっとこの少年は翔太との浮気をやめるだろう。だから敢えて、妊娠の可能性に言及しなかった。  優斗の盛大な勘違いによって、優斗の意思とは真逆の方向へと、歯車が回り始めていた。  翔太に頼まれ、オメガの彼、沢圦蒼を車で自宅まで送り届けることになった。  車内はどちらも口を開くことなく、静かな時間が流れていた。突如、助手席に座っている蒼が口を開いた。 「番が、いるんですね……」  蒼の視線は優斗のうなじへと注がれていた。なんと返事をしようか少し迷ったが、牽制も含め、正直に答えた。 「……生徒会の佐久間翔太の番です」 「佐久間先輩の…………いいなぁ……」  羨ましそうに呟く蒼は、自分のうなじを触った。そこに噛み痕はない。  紘一に番にしてもらいたかった、との想いがその言葉に込められていた。しかし、優斗は、翔太と番になりたかった、という意味だと誤解した。  優斗は何も語らず眉を顰め、ハンドルを握りしめた。

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