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第34話 -優斗編-

「優斗、やっぱり俺のところに戻って来たんだな」  治也が勤務する病院に訪ねてきた優斗を、治也は嬉しそうに出迎えた。  すでに診療は終わっている時間帯で、待合室に人はおらず閑散としていた。  笑顔を浮かべる治也を見て、虫唾が走る。よくも、いけしゃあしゃあとそんなことが言えたものだ。  優斗は、はらわたが煮えくり返りそうなのを、表面には出さず、にっこり笑った。そして表情を消すと冷たい眼差しで言い放った。 「人殺し」  初めてみる優斗の目に、治也は息をのんだ。 「何言ってるんだよ、優斗。何のことだ? しばらく会わないうちにどうした? あいつ(翔太)の悪影響でも受けてるんじゃないか? そうだろ? 絶対そうだ!」  治也の言葉には耳を貸さず、核心に迫る。 「なんで!? なんで僕の子を……」  お腹を押さえる優斗を見て、治也は冷めた口調で吐き捨てるように言った。 「何だ、そのことか。今更……。何が悪いんだ? むしろ清々しただろ? 好きでもない奴の子供なんか産まずに済んで」 「は? 治也は、本気でそれを言ってるの? 冗談だよね? 治也はずっと僕に、血の繋がった家族を作ってあげたいって言ってくれてたのに……それなのに……」  治也は深い溜め息を吐く。 「それは、あくまでも俺との子供の話だ。他の奴とのじゃない」  優斗がその場で泣き崩れた。  治也の足音が遠ざかって行く。それが彼の答えだ。  そして、その代わりに駆け寄ってくる聞き慣れた足音に、優斗は涙に濡れた顔を上げた。 「帰りましょう。優斗さん」  差し伸べられた翔太の手を、優斗は震える手で掴んだ。 「こんな悲しい思いをさせることになったのは、全部私が原因です。あなたの苦しみや哀しみは、すべて私が引き受けます。あなたの苦しむ姿は、もう見たくない」  優斗を引き起こした翔太は、真剣な眼差しで言い切った。 「私は一生あなたのそばにいることを、約束しました。でも、優斗さんはすぐに私と距離を置こうとする……やっぱり私だと、嫌ですか?」 「嫌じゃない! ……ただ……」 「ただ?」  次の言葉を促す翔太の声は優しい。 「翔太くんは好きな人がいるから、……僕が邪魔に……」  ずっと気になっていたことを、ついに口に出した。  翔太は腑に落ちない表情で、首を傾げる。 「? 私が好きなのは、優斗さんだけです。なのに何で優斗さんが邪魔に……?」 「……っ。嘘、吐かなくてもいいよ」  一度止まったはずの涙が、また流れる。  その涙に翔太の温かい指先が触れた。 「不安にさせてしまって、すみません。早く誤解を解きたい……落ち着いて話せるところに、場所を変えましょう」  翔太の提案に、優斗は同意した。

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