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第37話
抱き込まれた優斗は身動きが取れず、そのまま翔太の胸に身体を預けた。
「優斗さん……どこにも、行かないで下さい」
腕により一層力が入り、切羽詰まった声で、翔太は優斗に懇願する。
新薬の報道で、もし優斗が自分の番ではなくなったら、と考えて背筋が凍った。
優斗の存在が、自分の中でかなり大きくなっていることに気付かされる。
例え世界中の全ての人間を敵に回したとしても、優斗は絶対に誰にも渡さない。そんな独占欲が渦を巻く。優斗以外の番など、自分には考えられない。
「どこにも行かないよ。ずっと翔太くんのそばにいる」
優斗は翔太が欲しい言葉をすぐに返す。
自分達はお互い想いを口に出さなかったせいで、すれ違いばかりしていた。だから、今後すれ違わないように、思ったことは口にするように二人で取り決めをしたのだ。
「どうしたの? 何かあった?」
翔太の顔を下から見上げる。
「……新薬が……番を解消しても、オメガが新しい番が作れる薬が開発されました」
「?」
「実用化が始まれば、この薬で、優斗さんは自由になれる」
「そんな後ろ向きなことを考えるのは、もう止めよう? 僕に新薬は必要ないよ。僕には翔太くんがいる」
優斗は穏やかに笑うと、翔太の胸に頬を寄せた。
その日の夜、優斗を抱きしめて眠った。
夢を見た。遠い遠い、小さい頃の夢。
曾祖父が屋敷の縁側で、治也と翔太に本を読んでいた。
曾祖父は毎日同じ本を読んで聴かせた。
『オメガは人の形貌にて人に非ず。アルファの子を為すことが使命の傀儡なりーー』
『否』
『オメガを軽んずれば、子々孫々繁栄叶わず。オメガはアルファの番、是、即ち天命なり』
読み終えると、曾祖父は本を閉じた。そして二人に、こう告げた。
『治也と翔太は、必ず番と結ばれる。ちゃんと、見誤ることなく、運命の相手 と番になるんだぞ。そして、番を大切にしなさい』
何故、今まで忘れてしまっていたのだろう。
曾祖父は、オメガに対する抑圧を教えていたのではなかった。むしろその逆だった。
--オメガはアルファの番。
翔太は見誤ることなく、優斗を番にしたのだ--。
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