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第40話

 翔太は居間のテーブルに数学の宿題を広げ、考え事をしていた。目の前のド・モアブルの定理について考えているわけでもなく、先日の本城との会話を思い返していた。 『オレは十八の時に、本城の家に引き取られた。この噛み痕は、引き取られてすぐ、一つ年上の義兄に無理矢理付けられたらものだ。今も番の解消はしてない……だから、新薬で番を解消する。もし、薬の副作用でオレの身に何かあったら……緊急連絡先を優にしていいか頼みに来た』 『そう、でしたか。……そのお義兄さんは今?』 『海外を飛び回ってると思う。もう何年も会ってない。……一つだけ、伝えておく。義兄は、優の勤めるレストランのオーナーだ。番のいる優に手を出したりはしないと思うが、気にだけはしておいてくれ』 「……くん、翔太くん? さっきから、一問も進んでないよ?」  いつの間にか優斗が帰宅していて、何度も呼ばれていたようだ。 「あ、優斗さん、お帰りなさい」 「ただいま」  少し疲れた表情の優斗は、翔太の横に座ると、頭を翔太の肩に乗せた。 「今日はいつもより疲れましたか?」  優斗が甘えてくるのは貴重で、翔太は顔を綻ばせる。 「……うん。今朝、レストランのオーナーが来て」  ついさっきまで考えていた本城との会話に出てきた、本城の義兄の話に翔太は動揺する。 「それで、海外に出店するレストランのオープニングスタッフに指名されて……」 「え!?」  予想していなかった言葉に、喫驚の声が出た。 「翔太くんは、どう思う?」  好きな相手にかっこ悪いところを見せたくないのは、男の性だが、その見栄のせいで優斗との間に溝を作るのは嫌だ。 「……私の本音としては、行ってほしくありません……。心の狭い男だと思われるかもしれませんが、優斗さんと離れ離れになるのは嫌です……」 「ふふっ」  切々と語る翔太の声を聞きながら、優斗が笑った。 「何か変なこといいましたか?」 「ううん。嬉しいな、って。僕も同じ気持ちだから」  翔太の肩から頭を離すと、優斗が漆黒の瞳で翔太を見つめた。 「僕も、翔太くんと離れたくない。だから断る」  その言葉に、翔太は目尻を下げた。  両手で優斗の顔を包むと、何度も口づけをする。 「優斗さん。夕食もまだですし、発情期でもないけれど……あなたを今すぐ抱きたい」  欲情した翔太の瞳に、優斗は思わず息を呑んだ。

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