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第42話
「近所迷惑、だと思いませんか?」
玄関から外へ出た翔太は、後ろ手で扉を閉め、玄関先で喚き散らしていた男に視線を向けた。
「確か君は一年の、本城 琉生 ……」
今年の入学式に新入生代表の挨拶をした琉生のことは、鮮明に覚えている。つい先日まで親の仕事で海外にいたらしい彼は、高校生になったばかりとは思えない貫禄と威圧感を持ち合わせていた。
琉生に睨まれたら、誰もが、たじろぐだろう。しかし翔太はその目を真っ直ぐ見返した。
「ああ、このボッロい家、会長の自宅だったんですね」
翔太の行動が気に食わなかったのか、玄関の上部に掲げられた表札を確認すると、琉生は悪びれる様子もなく、鼻で笑った。琉生の嫌味には耳を貸さず、翔太は腕を組むと静かな声で、用件だけを伝えた。
「有馬はここにはいない。お引き取りを」
怯まない翔太の態度に、琉生は珍しいものを見るような視線を送り、嘲笑う。
「えーっ。そっかー。さっすが、学校内でアルファの頂点の生徒会長ともなると違うなー」
間延びした言葉使いで、可笑しそうに笑う琉生に、翔太の右眉が上がった。
「何が可笑しい?」
「はははっ。愉快。愉快。有馬先輩オメガのくせに、アルファだって言ってるわけだろ? そんなオメガをアルファ会に入れてるようじゃ、会長失格でしょう」
翔太が口を挟む間もなく、琉生は何が面白いのか笑いながら話を続ける。
「学校のトイレで甘い匂い垂れ流してたから、種付けしてやろうと思ったのに、まさか反撃されて逃げられるとは俺としたことが。まぁ、すぐ追いかけて来たけど、匂いもなくなったし、逃げた先が会長の家とかつまんねーの」
愚者は語る、とはこのことか、と心の奥で毒づいた。
「言いたいことはそれだけか」
礼を尽くす相手と、そうでない相手が翔太の中にはハッキリとした線引きがある。琉生は後者だ。語調が変わった翔太に、琉生は一瞬目を見張る。
「有馬は正真正銘アルファだ。生徒会に入る前、全員性別検査が行われる。そこに不正が入り込む余地はない」
会話は終わりだと言わんばかりに、琉生に背を向けると、玄関扉に手をかけた。
琉生は分が悪いと感じたのか、話題を変える。
「会長って番がいるんですよね」
翔太に番がいることは生徒会役員しか伝えられていない。そしてその情報はもちろん他言禁止だ。しかし、琉生はどこから仕入れたのかその情報を知っていた。
「学校にバラしたければバラせばいい。そんなことで狼狽えたりはしない」
「ふーん。随分余裕なんですね。けど、危害が及ぶのが自分自身じゃなく、番の相手だったらどうするのか見物ですね」
危害が及ぶのが優斗だったら? 何を企んでいるのか検討もつかず、翔太は振り返った。嫌な笑みを浮かべる琉生に、低い声で尋ねる。
「どういう意味だ?」
「俺の親、会長の番が勤めてるレストランのオーナーなんですよねー。これから楽しみだなー」
ゲラゲラと笑いながら立ち去る琉生から、しばらく目を離せなかった。
彼は、本城琉生は、本城斎の子供なのだろうか--。
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