47 / 52
第46話
翔太は学校へ向かう途中、顔面蒼白で息を切らして走っていく優斗を見かけた。
優斗の形相から、ただならぬ気配を感じ取り、翔太は気づかれないように後を追った。
辿り着いたのは一軒のマンションだった。優斗が出てくるのをエントランスの外で待っていた翔太は、地下駐車場に続くスロープから聞こえた甲高いブレーキ音に、目を向けた。
「いっちゃんを返してください!」
「返してください? つい今し方きみに斎のことをお願いされたばかりだと記憶しているが?」
地下から反響して耳に届いた声の一つは、優斗のものだった。
「いっちゃんは……いっちゃんは……あなたとの番を解消したがっていた! だから、あなたにいっちゃんは渡せない」
「……斎がきみに何を言ったか知らないけれど、少なくとも俺は、斎のことを愛している。それは事実だよ」
会話の内容から、もう一人は、斎の番。本城琉生の父親で、優斗が勤めるレストランのオーナーだ。
この間の琉生の発言から、優斗をこれ以上琉生の父親と関わらせるのは危険だ。
地下へのスロープを下ると、すぐに優斗の後ろ姿が見えた。
「優斗さん!」
「どうやらお迎えが来たようだよ。きみは帰った方がいい」
優斗の視線の先には、一台の車が止まっていた。運転席の窓から覗く顔は、琉生にとてもよく似ていた。
「帰りましょう。優斗さん」
涙を溜めた優斗の腕を掴んだ。斎を想う優斗の気持ちがわからない訳ではない。しかし、翔太にとって何より大切なのは、斎ではなく優斗だ。
「ごめん。翔太くん」
優斗は、一つまばたきをすると、翔太の手を振り払った。
涙が頬を伝うのを、拭ってあげようと手を伸ばした翔太から、優斗は一歩後ずさった。
「翔太くんとは帰れない」
身を翻し、優斗は斎の元へ、車の後部座席へと身体を滑り込ませた。
運転席の司は、諦めたように溜め息を吐くと、翔太に声をかけることなく車を発進させた。
ともだちにシェアしよう!