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第48話

「ご無沙汰しています。結城さん」  前生徒会長で、翔太を生徒会長に任命した、結城紘一。彼に、期待に応えられなかったことを、伝えなければいけない。 「佐久間……何かあったか?」  早朝にも関わらず、紘一はしっかりした声で尋ねる。 「結城さんから拝命した、生徒会長の任期を全うできませんでした……。私は一週間後に退学処分になります」  最後まで勤め上げる事が出来なかった。悔しいという思いはある。しかし、番がいることを隠してもいなかった。だから、いつこの日が来ても不思議ではなかったのだ。 「…………まさか、番のことが学校にバレたのか?」 「ええ。残念ながら……」 「佐久間はこれからどうするんだ?」 「……まだ、考えていません。幸い一週間の猶予がありますので、番と一緒に、これから先のことを考えてみます」 「……そうか……。……わかった」  紘一は何か考え事をしているようだった。 「あ、すみません。他の電話が入りました。それでは、失礼します」  着信は自宅からだった。応答しようか迷っていると、やがて留守電に切り替わった。  録音中の文字がディスプレイに映し出される。十数秒の録音時間がやけに長く感じた。  勝手を許してくれていた父の言葉は、短いものだった。 『学校から連絡が来た。詳細を翔太の口から聞きたい。今日、優斗くんの仕事が終わったら、一緒に自宅に来るように』  父はいつも寛大だ。  いつかは父のようになりたい。そう願っているが、まだまだ自分は子供のままだ。  --今日、優斗と一緒に。  手を振り払われた時に、心が軋んだ。翔太より優先する相手が優斗にはいる。自分は、優斗にとってなのだろう。  掌をじっと眺めた。  そこに、ぽつりぽつりと雨粒が落ちた。 「雨、か」  天を仰ぐと、分厚く垂れ込めた雲が漂っていた。  あくる日も、そのまたあくる日も、優斗は帰って来なかった。何度電話しても、優斗が応答することはなかった--。

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