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第5話

「では、始めましょう!」  亘理が珈琲を飲み終えた後、黒木に促されるようにあの淡いマルーンの皮製の美容椅子へ座った。先程までの理由が分からない震えのような状態は治まり、亘理は黒木にとりあえず、カットを頼んだ。 「どれくらいお切りしましょう?」 「3センチぐらい、お願いします。いつかはパーマもあててみたいから髪が……って、すみません。もっとばっさりいった方が良いですよね、20センチくらいです!」  ちなみに、今まで、亘理が髪を切っていたのは近所の理髪店だった。しかも、どんなカットにするかも小さい頃から切ってもらっていたおじちゃんという感じがしっくりとくる理髪師に、だ。  どれくらい、どの辺りを、どんな風に切るか。あと、どんな風なパーマを考えていて……など、伝えるのが難しい。  それに、髪を切るのはこの黒木なのだ。  もしかしたら、面倒だから丸坊主にされるかも、と亘理がそんな考えに辿り着くのと同時くらいだったか。  黒木が手にしていた鋏を近くにあるキャスターがついている台へ置いた。ごとりという音が静かな店内に響いたかと思うと、亘理は名前を呼ばれる。 「亘理さん!」 「すみません、すみません!」  亘理は咄嗟に目を瞑る。  恐い。恐い。恐い。とにかく、謝らなければ、と亘理が思った直後にこめかみよりも上の部分に柔らかな感覚が伝わる。 「亘理さん……」  その柔らかな感覚がする辺りにはやや長めに伸びた亘理の髪越しに黒木の指があった。  長さのある指だ。それに、黒木の雰囲気を思うと、似つかわしくないと思うほど、節榑立っていない繊細さで、折れてしまうのではないかと思わせる指だだった。  触れられるだけで、亘理の脳内の酸素が少なくなり、心臓が早鐘のように鳴っていく。 「く、黒木さん?」 「自分が恐いですか? 亘理さん」

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