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第6話(R18)

「亘理さん……亘理さん……」  2度、3度と亘理は名前を呼ばれた。  もしかすると、いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか。  亘理は黒木の声で気がつくと、いつの間にか横たわっていた美容椅子から立ち上がろうとする。 「えっ」  立ち上がるどころか、亘理は起き上がれもしない。それもその筈で、僅かに宙へ浮いた腰骨の辺りにはベルトのようなものが巻きついていた。おまけに、手首も足首も固い布製のベルトで縫い留められていているようだった。 「く、黒木さん?」  これは一体、どういう状況なのだろう。  亘理はいつも以上に戸惑うように黒木を呼んだが、呼ばれた本人は答えない。そして、答えの代わりという訳ではないのだろうが、亘理のパンツの留め具へ手をかけた。 「や、やめてください!」  亘理は抵抗しようと、右手を動かそうとするが、一向に動かない。  決して、ガチガチに固定されている訳ではないのだが、亘理が身体に力を入れて、解けたり千切れたりするほど柔ではなさそうだった。 「やめても良いんですか? こんなにお辛そうなのに?」 「え……」  黒木にはまだ2度しか会った事がないが、彼はまっすぐで、輝きのある目が印象的だった。しかし、今はその目が妙に熱を帯びていて、別の意味で光っている。そのように亘理には見えた。それと、感覚的に思ったのは  視線だけで犯される。 「やめっ……あっ、んっ……」  亘理の口元からは上手く紡がれなくなった制止と甘い声が出る。亘理のパンツは既に履いているというものではなく、ずり下ろされて、足首の自由を奪うベルトのある部分でひっかかっている。  という状態だったので、黒木はただ指を伸ばして、彼の若草色のトランクスの中にあるだろう性器を掴んで取り出せば良かった。 「亘理さん、ご覧になるのは恥ずかしいですよね。目元をお隠ししますよ」  そんな事を言い、黒木が掴んで取り出したのはよく美容室でシャンプーをしてもらう時に乗せられるフェイスガーゼだった。それを用途通りに使われると、亘理の視覚は布地とその影でできたホワイトグレーしか映さなくなる。 「黒木さっ!」  目元が覆われた形となり、亘理は明らかに狼狽する。  黒木はフェイスガーゼが落ちないように包帯を留める時に使う布テープをこめかみに向かって張る。その同じ指で今度こそ亘理の陰茎に触れると、亘理は発狂したみたいに叫んだ。 「いや……ぁ……。あぁっ!」  黒木の指によって亘理の淡い色の陰茎はぬるんと触れられていく。  当然、視覚を奪われ、感度が高まっていくが、撫でるような弱い刺激のままでは亘理は射精する事はない。黒木の手つきは触れているものから徐々に激しいものになっていく。 「やめ……て。やめて、くださ……いっ」  亘理の途切れている哀願の声はもしかすると、黒木には届いていないのかも知れない。  握り込み、時には指先を巧みに動かして、亘理に無慈悲とも言える快楽を与える。 「んっ、ンっ」  黒木に痴態を曝し、甘えるように嬌声を巻き散らしてしまう。何とか、精液だけは溢れ出さないようにしたいと、亘理は下半身の奥にある精巣に力を籠める。ただ、それは膀胱近くにまでどくどくとこみ上げてくる抑えられない熱。そんな熱に勝てる訳がなかった。  とぷりと重みを増していく性器に、足の爪先に焦れたような痺れが走る。そんな事実に亘理の心は陥落してしまった。

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