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第7話
「あっ!」
亘理は亀頭から精液を出してしまったと思い、目を開ける。目蓋を上に動かすように動かしてから、下に動かして、もう1度、上へ押し上げるように動かす。
「ゆ、夢……」
咄嗟に、亘理は口元を手で押さえると、先程まで見ていた淫靡な夢を見る前の事を最初から思い返す。
「確か、昨日は黒木さんの店に行って……それから、髪をカットしてもらったんだった……」
ベッドサイドへ乗る、縦が10センチ程の立て掛けられる鏡には少しだけ髪が短くなった亘理が映る。
あの黒木の「恐いですか?」という質問に何とか、答えた亘理はあの後、最初に希望した通り、3センチだけ髪を切ってもらった。
「貴方の髪を20センチも切ったら、髪の毛、1本もなくなっちゃいますよ」
そんな事を口にし、黒木は少しだけ笑う。
切ってもらっている時には亘理はすっかり動揺してしまっていて、その黒木が優しげに笑うのにも気づかなかったのだが、黒木の腕の良さだけは感じ取れた。
亘理は以前に1度だけ、いつも切ってもらっていたおじさんの店ではなく、別の理髪店で切った事があった。だが、その鋏の使い方は雑だった。
しかも、最後に「いかがですか?」と鏡を見せられると、明らかに切りすぎている。やや童顔の亘理は髪を切りすぎれば、さらに幼く見えてしまう為、髪が伸びるまで嫌で嫌で堪らなかった。
勿論、いつも亘理の髪を切ってもらっていたおじさんは上手かったが、それでも、黒木のカットは特別に早さがあり、かつ、上手い気がした。
「全体を3センチ、お切りしました。次はいかがしましょうか?」
黒木は先程、亘理が「パーマをかけたい」と口にしていたのを覚えていたのだろう。
早速、黒木の体は準備に取り掛かろうとする。
ただ、さっきの黒木からの思いがけない質問と言い、柔らかくて、壊れ物を扱うようにこめかみの辺りを触れられた事と言い、亘理は何だか、気疲れしてしまった。
「ああ、もうこんな時間。実は、今日はたまたま通りかかっただけだったんです!」
「え? そう、だったんですか?」
「はい。だから、また来ます」
「また来ます……か。つい、そんな事を言ってしまったけど、どうしたものかな?」
それから、何とか、自分の部屋まで帰ってきて、倒れ込むように眠りについたのだろう。
何とか、ベッドの布団には潜り込んでいたが、黒木の店へと出かけた時に着ていったシャツやスラックスのままだった。皺でくしゃくしゃになっている当然だった。
その上、先程も夢で履いていた若草の色のトランクスの中は大学生にもなって、夢精してしまい、少し気持ちが悪かった。
「とりあえず、シャワーかな? あと、飯も食べて……」
しかし、亘理はその後もことあるごとに黒木の事を思い出してしまった。
「何、意識してんだろ……」
シャワーから出る湯の熱さやトーストにつけたマーガリンの味。
馴染みのあるそれらがどこか空虚なものに思え、亘理の頭の中には黒木の事でいっぱいになっていた。
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