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第12話
「では、暫く、パーマをかけますから大きく動かないでくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
頭皮は冷たいパーマ液を塗られ、顔だけは人肌よりもやや温かくて、気持ちの良いタオルで拭かれる。
もう5月が近いというのに、熱いのか、寒いのか。どちらともつかない状態で、黒木は「寒くはないですか」とエアコンのリモコンを手に取る。
「いや、我慢できないほどではないので」
「そうですか。あ、これ、さっき言っていたアルバムです! それでは自分はパーマが終わる頃に来ますんで、失礼します」
黒木はその言葉だけを残すと、空のデミタスカップが乗っかっていたプレートも残さずに、奥の部屋へと去ってしまった。
「……じゃあ、アルバムを見ようかな」
黒木から渡されたアルバム。
それは萌黄色というのか。優しい緑をしていて、亘理も好きな色の一つだ。素材は布張りのもので、大きめの手帳ほどのサイズだった。
亘理はそっと1ページ目を開く。
「はめ込み式だな。あ、これが黒木さん……」
厚みのある1ページ、1ページに切り込みが施されていて、その切れ目に写真の四隅をはめ込む形になっている。
決して、多くない写真の全てに6、70歳程の男性と14、5歳から20歳前後までの少年が写っている。
おそらく、黒木と慶喜氏だろう。
写真によってはシャツのみとラフなものもあったが、慶喜氏は萌黄色の石をあしらったループタイとベージュのシャドーストライプの入ったスーツを、黒木少年は渡烏のように黒いネクタイに黒いスーツをよく着ていた。
その様子は黒木少年が少し照れたような笑顔をしていて、慶喜氏は穏やかな顔をして、品の良いウィンザーチェアに腰をかけていた。
「小さいけど、目とかは面影があるかも……」
幼いながら、鋭い眼光は健在で、高い鼻や一文字型の唇など、個々のパーツは変わっていない。
多分、黒木に弟がいたら、こんな感じなのだろうと亘理はページを捲りながら思う。
「あれ、最後の1枚……少し、外れかかっている?」
最後の1枚は今の黒木と比べても、変化は髪色だけだったので、近年に撮られたもののようだった。
亘理は写真が指の脂で汚さないように注意を払って、写真をはめ込みから丁寧にはずす。
そして、また4隅の切り込みに沿わせるようにはめ込んで、アルバムを閉じる筈だった。
「あれ、何か、書いてあるみたい」
亘理は以前、テレビか何かでアルバムを思い思いに編集しようというコーナーをぼんやりと眺めていた事があった。テレビの中では写真を貼って、余ったスペースにイラストを描き込んだり、写真の裏にその時の気持ちを書き残したりしていたが、どうやら、慶喜氏も同じ事をしたのだろう。
ただ、そこに書いてあった事実に亘理の思考は凍りついた。
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