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第14話
「もう長くはないだろう」
あの黒木屋の鮮やかなスカーレットのソファにかけ、1人の老紳士が左足へ右膝を美しく組んでいる。彼の手には首元に光るループタイの石と同じ色をしたあのアルバムと万年筆が握られているようだ。
「会社を部下に任せた私は会社にもこれからの余生にも興味はなかった。どれもが空虚で、色味がない。そんな中、私はある家出少年と出会った」
ある家出少年。
指が長く、繊細そうだった。鋭い眼光のせいで、どこか悪びれて見えるが、本当は孤独なだけで寂しがっているような気がした、と老紳士はつけ加える。
「それから、10年……私は彼と共に過ごした。どうでも良いと思っていた人生。彼はそんな最初で最後に用意されていた、贈り物だったのかも知れない」
老紳士が言葉にした分だけ万年筆がアルバムの上を進むと、ニブはその書面から離れる。
「ただ、その贈り物は人になかなか心を開かない。私以外の人間で、彼が心を開かない。その事は嬉しくもあり、悲しくもある」
老紳士はアルバムを閉じ、目を閉じる。
ただ、眠る訳ではない。またすぐに目を開いて、天井を、遠くを仰いだ。
「できれば、彼が大事にできる人間が私で最後ではない事を願う」
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