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第15話

「ああっ!」  亘理は急いで、コンロのつまみを強火から弱火へと移動させた。部屋には焦げて、鼻に不快な臭いが立ち込めていたので、換気扇もつける為、気持ちだけ踵も上げる。  すぐに外の新鮮な空気でダイニングは浄化されていく。  亘理は何を思ったか、真っ黒に焦げて、無残な姿をした焼きそばを皿へと盛った。 しかし、いつもの愛用の皿に盛ったものの、消し炭同然に出来上がったそばは食べられそうになかった。 「俺、どうしちゃったのかな?」  力なく、呟かれる亘理の一言。  亘理は料理が特に上手い訳ではないが、小さい頃から焼きそばはよく作っていた。そばを焼かせて、失敗した事は今まで1度もなかった。 「黒木さんと慶喜さんの事、考えてた」  黒木に見せてもらった萌黄色のアルバム。  そこには10年を共にした、血の繋がりもない。一見、縁もゆかりもなさそうな少年と老紳士が幸福そうに写っている。  その裏に隠された老紳士が少年へ向けていた深い愛情が痛いほど伝ってくる。 「俺は何も知らないんだ。慶喜さんの事も、黒木さんの事も……」  亘理は最早食べられないだろう焼きそばを三角コーナーのゴミ袋に捨てると、使っていたフライパンにぬるま湯と食器用の液状の洗剤を入れる。  ゴミ袋の底へ焼きそばが捨てられる音。フライパンに湯を注ぐ音。食器洗剤の容器を押し、その中身が湯を張ったフライパンへ注がれる音。  耳には届いている筈なのに、それらが何故か、遠くに感じる。  それから、亘理は倒れ込むようにして、ベッドに身を預けた。 「何だか苦しい……」

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