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第23話

「ヘイ、ユー?」 「え、あ、はい……」  李の呼びかけに何とか、言葉を返したものの、亘理は李の話を聞いているうちに頭へ何かが乗っかっているような鈍い感覚がしていた。  痛くはないが、少し気だるい感覚。  亘理は医学に明るくはないので、分からないが、位置としては前頭葉の部分ではないだろうか、と思った。 「まぁ、良い。気分が悪くなったら、帰る事は許可する事はできないが、楽にしてくれたまえ」  李はそんな事を口にすると、口元を少し上げる。  それは老人がするには少し若い顔で、まだ淫ら事に関心が持っている男の顔のように見えた。  しかし、亘理は黒木と慶喜氏の事で冷静ではなかったし、先程から感じ始めた鈍い頭の重みとでそれ以上、何かを深く考えて、李との会話を続ける事は亘理にはできそうになかった。 「どこまで、話したかな?」 「えーと、もう1つ……僕にとって良い話があると言って……ました」  何故か、亘理は思考に続き、口元も上手く回らなくなり、途切れ途切れに呟く。  これは本格的に気分が悪くなってきたのでは……と亘理は感じたが、先程、李にも言われた通り、具合が悪いからと部屋を出ていこうとしたら、今は堅気でも元マフィアだ。  生命は諦めないといけないかも知れない。  その一方で「ユーは頭が良い。上手く使えよ?」と、亘理に釘を刺した李はまた声の調子を変える事なく、歯を見せ始めた。 「あれを拾った後、ヨシノブは自分が癌を患っている事を知ってしまった」 「が、ん……?」  亘理はいよいよ、自分の体調がおかしいと思いながら、それだけを繰り返した。  相変わらず、李の歯は口から覗いていて、少し脂がかった歯だが、歯並びはとても良かった。 「ああ、軽度の、な。当然、初期のもので治療する事もできたが、その時のヨシノブは珍しく拒否した。自分の髪を切るのも、抜くのもあれだけだとな」  その李の言葉を亘理は考える。  もしかして、慶喜氏は抗がん剤の副作用を恐れた?  だが、最早、心身共に本調子ではない亘理にはそこまで考える事はできない。  しかも、次の瞬間、亘理の腕から肩にかけて、違和感のようなものが走る。いよいよ亘理が持っていた思考はがたんと何かが壊れるように止まった。

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