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第24話(R18)
違和感……強いて言えば、それは底冷えのような、悪寒のような不安定さだった。
「あぁ……!」
亘理は短く声を上げて、円卓に突っ伏してしまった。
美しくて、色合い的にも、質感的にも冷たいラピスラズリ。円卓へ置かれてある無垢な白さを持つ茶器。
それらを亘理の胸で押し潰すという事はなかったが、一体、何が起こったのか。
それは亘理には分からない。目の前には李もいるのに、亘理は突っ伏したガラス製の円卓から身体を起こせない。
だが、そんな明らかに普通の状態ではない亘理を見ても、李は動じなかった。
そればかりか……
「ふっ、1時間とちょっとか……ユーは割に薬(ヤク)が効くのが早い体質のようだな」
「え、や……く……って……」
亘理は異常に震える唇でやっと、という感じで呟く。
先程、身体が倒れ込む時に感じた悪寒は次第に消え失せ、亘理の身体の芯を熱く蝕んでいく。
「ん……っ」
よく他人から耳朶や乳首、脇腹や手足の内側などを触られて、さぁと震えるような快感に襲われる事があるが、まさにそんな感じの感覚が亘理の全身に曝される。
「はっ……んぅ……」
短く、息を吐く亘理。
できるだけ、何でもないように振る舞いたいのに今の亘理にはできそうになかった。ただ、それでも、どろっと溶けるように涙が零れかける目に力を入れ、その視線だけを李の方へ向ける。
その揺れるような、はっきりとしない亘理の視界では李が笑っている。その双肩から垂れた渡鴉の色をした彼のストールも揺れている。そして、円卓へついた亘理の顎を拾い上げるかさかさとした彼の指は亘理の髪へと伸ばされる。
「不安になるな。薬は薬でも麻薬の類じゃない」
「じゃ……な、んっ……の?」
「おいおい、何の薬なんて事は言わなくても分かるだろう? こうでもしねぇとユーもあれも素直になれねぇだろうからな」
「す、な……お……」
亘理のその弱々しい言葉は部屋の扉が荒々しく開いた音と共に消えてしまった。
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