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第25話(R18)
李の呼ぶ「あれ」こと黒木敬輔と亘理が会ったのは彼と最初に偶然出会ったスーパーマーケットと黒木屋だけだった。
しかも、最初の出会いも含めたとしても、たったの3回だけだ。
間違っても、亘理はこんな場所で彼と会う筈はないと思っていた。しかし、亘理が円卓に伏してから間もなくして、部屋の扉が開けられる。
名前を呼ぶその声は確実に亘理が聞き知ったものだ。
自分の意思に反した快楽に逆らいながら、亘理はその視線だけを申し訳程度ではあるが、その声のした方へと向けた。
もう一度、自分の名前を呼ぶ、聞き知った声が胸に響く。
「亘理さんっ!」
「く、ろき……さ……」
亘理が声をかけられたように、自分もその声に合う人物の名前を口にしてみる。
その一方で、身体はとても熱っぽいのに、頭だけは氷か保冷剤でも埋め込まれたように冷えていく。
何故、ここに黒木がいるのだろうか。李が黒木を呼んだのか。例の取引を成功させる為に。冷静に考えれば、普段の亘理の頭は理論的な答えを考えられるのに、その頭も心も正常には動かなくて、代わりに絶望とも呼べるものが込み上げる。
「亘理さん、必ず楽にしてさしあげますから……」
触れないで、と亘理は黒木を拒むべきだった。
こんな状態で黒木に触れられたら、どんな事を口走ってしまうか。どんな痴態を演じてしまうか。
それは熱に浮かされたように朦朧とする意識下の亘理にでも分かり切っている筈だった。
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