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第26話(R18)

 おそらく、李は部下と共に引き上げたのだろう。  食事をするだけにしては広すぎる部屋に黒木以外の視線はなく、あとは部屋から黒木を追い出して、自分で身体の熱を少し収めればと亘理は思った。  ただ、当の黒木は事もあろうに円卓と亘理の胸の間に腕を差し込んでいた。 「く、くろきさんっ!」  と、ここまではっきり言葉にはできなかったが、亘理は黒木の腕を自分の胸の下から追い出そうと利き手である右手を必死に動かそうとする。  しかし、黒木は優しく口にするだけだ。 「今、お体、起こしますね」  もうほとんど黒木の声が聞き取れなくて、まともな返答を返す事も難しい亘理へ。黒木は律儀に断り、ガラス製の円卓から細い亘理の半身を抱き起こす。  円卓の表面から黒木の背中へ亘理の身体は預けられる。  だが、亘理の身体を冒す媚薬の所為で、その身体は黒木の背中に上手く乗れない。しかも、力なく座っていた椅子からも滑るようにして、床へと倒れ込んでしまう。 「ぁ……」  幸い、亘理が倒れこんだ先の床の上にはアイボリーブラックの絨毯が広がっていた。その毛並みは心地よく、まるで、上質の毛布のように柔らかな感覚が亘理の頬へ伝わる。  心理的な痛みこそあれ、物理的な痛みはほとんどなかった。 「亘理さんっ!」  黒木は叫び、「お怪我はありませんか」と狼狽え出すので、亘理は何とか、大丈夫だという風に黒木へ向かって力の限り笑ってみせる。本当は声にして言いたいのに、それが精いっぱいだった。 「亘理さん、申し訳ありません」  亘理が笑っても、黒木は恭しく亘理へ詫びる。そして、亘理の頚椎の辺りと膝窩の辺りで自身の腕で支えて、オニキスブラックの大きなソファまで運んだ。 「亘理さん。お召し物、失礼しますね」  黒木の腕によってゆっくりとソファへ預けられた亘理の体重でスプリングが跳ねる。  今は苦し気に息を吐く亘理が気に入って、よく着けているスプリンググリーンのネクタイ。それと同系の色をした石の埋め込まれたスタッズベルト。ダークグレーのスニキージーンズやインディゴの下着。  それらは黒木の優しげな声と、同じように優しげな手つきで亘理の身体から剥がされていく。 「ああっ!」  最後の深い色の下着が亘理の細い足に沿って、脱衣させられる。先程は黒木が声を上げたが、今度は亘理は羞恥に叫んだ。その曝された陰茎も陰嚢もたぷんとその重量を増して、その口からは荒々しい息が吐き出される。亘理の目はぎゅっと力の限り、瞑られた。

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