4 / 13

4

「ちょ、ちょっとまってくれ」  ドラマでよくある修羅場シーンを、まさか自分が体験することになるとは思っても見なかった。 「りょーすけ。何してんの?」  ほら、こんな押し問答をしているうちに、渦中の人物が来ちゃったじゃないか。怖くて視線を向けられない。高梨さんが好きになった女性がどんな人なのか気になったけど、見たら余計に落ち込みそうで視線を逸し続ける。  それにしても、女性にしては声が幼い。でも声優とかで幼女役があるぐらいだから、そういう声質の人もいるはずだ。 「美織。部屋に戻ってろ」  そうか、美織という名前なのか。可愛い名前じゃん。 「なんでそのおじさん。泣いてるの?」 「えっ?」 『おじさん』『泣いてる』の単語に驚く。おじさん?まだ俺、二十六なのに?  訝しげに声のした方へと視線を向け、唖然とした。 「え?子供」  四、五歳ぐらいの三つ編みをした女の子が、腕組みをしながら仁王立ちしていた。  クリっとした黒目がちの瞳が可愛いが、口がへの字で不満が顔に現れている。 「きょーすけがいつまで経っても来ないから、カトリーナ姫も私もご立腹何だけど」  女の子が睨めつけるような視線を高梨さんに向け、鋭く言い放つ。 「分かったから……すぐ行くから戻ってろ」  高梨さんが今までに無いぐらい狼狽えている。チラチラとこちらを見ては恥ずかしそうに、眉根を寄せている。 「早くしてよね。カトリーナ姫はグズがお嫌いなんだから」  そう言い残すと、女の子は踵を返していった。  どういうことなのか呆然としていると、高梨さんが溜息を吐き出し「悪かった。中に上がってくれ」と諦めたように俺の腕を引いた。

ともだちにシェアしよう!