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 夕食を食べ終えて、モヤモヤした気持ちを抱えたまま部屋を後にする。  帰り際、高梨さんは変わらない調子で「今日は悪かった。気をつけて帰れよ」とだけしか言わなかった。  別に感謝されたいとか思っていたわけじゃない。確かに、もっと好きになってくれて「好きだ」とか言ってくれたら嬉しいし、本音は物凄く言われたい。  ふと、そういえば俺も好きだとは言ってないなと気づく。人には求めるくせに、自分は口にしないのは何だかフェアじゃない。  それ以前に、付き合ってなかったかもしれないという疑念が重くのしかかる。  憂鬱な気分に心が支配され、自然と溜息が溢れだす。  寒さが身に染みる秋の寒空の下、俺は明日からどう接すれば良いのかと頭を抱えた。     翌日の朝。  出勤するとすでに高梨さんは席に着いていて、パソコンの画面に目を向けていた。 「……おはようございます」  昨日の事もあってか、僅かに声が震えてしまう。 「おはよう」  画面から視線を外しもせずに、高梨さんは挨拶を返してくる。  いつも通りのはずなのに、いつも通りに捉える事が出来ない。  どんよりと重たい気持ちを抱えたまま、始業時間を迎え考えないようにと必死に頭を切り替えながら仕事をこなしていく。 「川神。ちょっと来い」  高梨さんの声に、びくりと体が震えてしまう。視線を呼ばれた方に向けると、高梨さんは部屋の入り口に立っていた。  重たい腰を上げ、高梨さんの後に続く。  高梨さんの後ろ姿を見つめながら、なんで呼ばれたのか見当がつかず緊張で足が震えてしまう。  廊下の途中で、高梨さんが俺の好きな缶コーヒーを買ってくれた。俺はお礼を言って受け取る。  これだけの為に呼び出したのかと訝しく思っていると、高梨さんは再び歩き出してしまう。  慌てて追いかけると、長い階段を上がって高梨さんが屋上の扉を開いた。

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