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第7話
「ご主人様ぁ!」
何かふくふくした手触りの柔らかなものが、頰に触れている。
「起きて下さい。頼みます!もう何でもしますからぁ~」
ピイピイ甲高い声が、近くで哀願している。
「何でも、とな?」
「ひぃっ!」
我が目を開けた途端、悲鳴と共に、ピュッと逃げ出した無礼千万な毛の塊を、思い切り鷲掴んでやった。
「どうしてここに居る?!」
「いえ、あの……なんというか。アマテラス様に助けていただきまして、ですね。此方に侍りまして、主様のお目覚めをお待ち申し上……ええぇえ?!」
「おまえ、この首輪はどうしたのだ?まさか……」
「そのぅ、目覚めたら、こうなっておりまして……」
ダラダラ冷や汗を垂れ流す毛の塊は、ガタガタと震えている。
「兄者の仕業だろうな。我でも敵わぬ最高神相手に、お前ごときが抗うことなど、出来はせぬ。我の方こそ、肝心な時に守ってやれなくて、済まん。」
「ツクヨミさまっ……」
柔らかいものは真っ直ぐ我が胸へと飛び込んできた。
「もう、以前のような野放しにはしてやれぬ。窮屈だろうが、赦せよ」
「も、勿体ないお言葉!」
「その代わり、何なりと、欲しいものを与えよう。何が望みだ?……グレイシャスの氷か?」
「い!ぃぃいえ、それはもう、堪能し尽くしましたので、御容赦を!」
「では。沼の淫靡な生物を喚ぶか?」
「いえいえ!滅相もございませんっ!」
「では……花の蜜にしてやろう。身も心も溶かす飛び切り甘い蜜を、な」
「ぶふぉっ?」
「ドライズテール、汝、この名と姿をもって我に仕えよ」
瑞々しい少年の姿になった下僕は、我が足元に跪く。
「終生、おそばをはなれにゃ……ックシュン!」
「嚔しながらの誓いとは、畏れ入る。まあ、いきなり毛を失くしたのだから、無理もないが」
我は暖かな寝床へ下僕を押し込むと、その隣へと滑り込んだ。
「ええぇええっ?!今日の業務は?もう終わったのですか?!」
「黙って、横になっていろ。それとも、今すぐ口を塞いだ方がいいか?」
「ぃ!いいえっ、まさか、そんな……」
まんまるになった目を閉じさせ、細い肩を優しく抱き寄せた。
「疲れを癒すは、睡眠が一番だ」
皆を眠りへと誘う羊は、我の手で安らかな眠りへおちた。
──さて。我も暫しの休息をとるとしよう。
明日からは、新しい日々が始まるのだから、な。
了
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