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杞憂

「気持ちよくお休みのところ申し訳無いが、兄上。そろそろお出まし頂けませんか?」 「あぁ、もうそんな時間か」 我らが交代の刻限 すれ違う兄の顔には、冴えぬ色を浮かんでいる。 「ご気分が優れぬようですが、如何なさいましたか?」 「何でもない。サッサとさがれ」 さも鬱陶しそうに手を振られ、我は足音荒く部屋へと戻った。 「気遣う者に対してあのような……何が最高神か!」 用意されていた温かい茶を飲みながら、毒づいていると、下僕がおずおずと紙片を差し出した。 『速報。Team☆RISING-summer全世界ツアー開始!』 ──あぁ、そういうことか。 我は小さく溜息をついた。 毎年、この時期、何度かの無礼講が発生する。 その熱さ、激しさに、数多の神が巻き込まれ、狂乱するのだ。 当然、その最中はこの世の理など意味をなさぬ。 兄上といえど、おいそれとは手をつけかねる彼らの勢いがようよう落ちたところを見計らい、黄泉の神や時の神と力を合わせ、宇宙へ吹き飛ばすくらいしか手が無いらしい。 ──さて。 今年の贄は、どの地の神になるやら。 憂いながらも、我は下僕の腰を抱き寄せ、眠りについた。

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