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駆け込み
「主様。何やら妙な気配を感じます」
褥から飛び起きた下僕が、鼻息も荒く報らせる間もなく
フラフラと一匹の蝙蝠が、窓から飛びこんできた。
「わっ!な!何やつ?!」
ピョンと跳ねて蝙蝠をよけた下僕に我は命じた。
「ドライズテール。この者に、水と果物を」
「えぇっ?!」
「今すぐだ。走れ!」
「畏まりましたーっ」
下僕が消えるのを待って、蝙蝠へ話しかける。
「して、夜の眷属が長よ。このような刻限に何用か?」
「どう、か、あの者たちを……止めて下さい、ませ。我ら、一族に、お情けを!」
──ふむ。どうやら既に例の狂乱が始まったらしい。
「お願い致しますツクヨミ様!でなければ。今年命を賜りました子らが皆、死に絶えてしまいまするっ」
いまだ子育ての終わらぬものらが、気の早い嵐のせいで、風前の灯火であるらしい。
これは夜を司る神として、見過ごせぬ事態である。
我は静かに立ち上がった。
「彼奴らに我が力が通ずるかは、判らぬ。が、すぐ往こう。案内せよ」
明けゆく空から喚んだ雲に乗り、我らは南へと向かった。
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