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第45話

竜崎が動いてくれているせいか、田辺からは今のところ何もしてこない。 榊もその事には触れないから、翔もあえて何も聞かずにいた。 翔の高校生活は安定していた。 普通の事なのに翔にとってはそれが嬉しかった。 クラス委員の仕事も慣れてきてクラスにも馴染んでいる普通の生活。 翔の望んだ事だった。 昼休みは竜崎も含めた三人で食べるようになった。 場所は屋上。 弁当を持って屋上に行くと竜崎が唯一あるベンチに腰掛けて待っているのがいつもの定番だった。 「夏目、田辺たちだけど今日登校してるか?」 真面目な顔で竜崎が聞いてきた。 翔は『田辺』と言う名前に少し驚いたが黙って聞いていた。 「いや、登校していない。他にも休んでいる生徒もいるから理由は聞いていないが…田辺がどうかしたのか?」 夏目が答えて翔も少し不安になった。 「いや、寮にもいない、自宅に帰ってる。これは噂だが、退学になるらしい」 翔と榊は顔を見合わせた。 「理由はわかっているのか?」 竜崎は頷いた。 「どうも斎藤を襲った後も誰かを襲っていたらしい。しかも相手は二年の先輩。 馬鹿な奴らだ、斎藤みたいに泣き寝入りするとは限らないのにな。」 翔は俯いた。 自分みたいに嫌な目に遭っている人がいたなんて…どんなに辛かっただろう。 そんな考えを見抜いたのか榊が翔の肩を抱き寄せた。 「で、学校側は知っているのか?」 「ああ、その先輩はしっかり学校に話を相談したらしい。 田辺もそのあたりの事を認めて今は停学中だってさ。 理由を公にできないから、あまり知られて無いけど来週には退学の掲示があると思う。 田辺も考える頭があれば、自主退学の届けを出すだろう。」 竜崎のはなしを聞いて榊は二、三質問した。 「田辺の周りで今休んでるやつは停学か? そいつらの処分は分かっているのか?」 榊の心配は、翔にも今後被害がないかと言う考えだった。 窮地に追い込まれると人は何するかわからない。たとえそれが高校生の子供だとしても…。 「翔、大丈夫だよ。俺がついてるんだからそんな顔をするな。」 そう言って翔の頭を撫でた。その様子を見ていた竜崎はイラついた様子で翔に向き直った。 「お前は弱すぎる!だからあんな奴らに付け込まれるんだ。もっとしっかりしろ!」 翔が驚いていると榊が庇った。 「おい。言い過ぎだ誠二!」 榊が言い返したが翔も自分の事ながら情けないとは思っている。 「とにかく、しばらくは一人で行動するなよ! いくら田辺たちがいないと言っても何があるかわからないんだからな。」 そう言うと竜崎はお昼も食べずに屋上から出て行った。

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