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第3話

愛情表現 30歳の京都人カップル。市役所勤務の尚人(なおと)×フリーターの楓。らぶらぶ。 「――なぁ、お前のそれって癖なん?」 耳元で荒い息遣いを混ぜた低い声がした。楓は尚人の耳朶から口を離し、彼を至近距離で真正面からぼうっと見る。全体的に彫りの浅い、薄い顔立ち――最近の言葉で言うなれば塩顔である尚人の頬は、普段は青白いが今はほんのりと紅潮し、東洋人特有の切れ長な一重の目からは、真夏の京都を彷彿とする蒸し暑さが滲んでいる。額に汗が浮かんでいた。 春先でまだまだ肌寒い夜だが、寝室のヒーターはついていない。けれどもふたりは素っ裸でベッドの中にいた。金曜日の今夜はふたりとも予定がなく、仕事が終わった後に三条木屋町で落ち合い、行きつけの居酒屋を梯子し、ビールにハイボール、日本酒に焼酎と呑んで呑んで、最後には呑まれて、大虎の状態でタクシーを拾い、この千本丸太町にある尚人の自宅マンションまで帰ってきた。 それから、「いやいや、勃たへんから」「いやいや、勃たせたるやん」などと駆け引きもへったくれもないやり取りがあり、こちらの勢いに負けた尚人をベッドに押し倒したのが、30分ほど前だろうか。楓という厄介な酔っ払いにより、酒のせいでまるで勃起しない一物を手や口でどうにか使い物にさせられると、尚人は楓の身体を性急に愛撫し、後ろを解し、そしてそれで抉ってきたのだった。 10年の片想いを実らせ、3ヶ月前に恋愛関係へと発展したかつての友人と、まだまだ蜜月のはずなのに、いったいこの有り様は何だと呆れてしまう。酒は呑んでも呑まれるなと、何度も何度も自戒してきたはずなのに、てんで学習しない。ムードは何とか遅れてやってきてくれたが、汗をかいたおかげか、少しずつ酔いがさめてきて、頭を抱えて唸りそうになった。アホ、ボケ、カスと胸のうちで自分自身をぼろかすに罵りながらも、楓は繋がった尚人から与えられる刺激に身をよがらせ、開放的な声をぽろぽろとこぼしていた。 そんな中でぼそりと投げかけられた問いに、一瞬きょとんとしながらも、「あぁ」と口の端が吊り上がった。 「そうやな、癖やわ、これ」 掠れた声で答え、楓は再び尚人の耳朶を食んだ。軽く歯を立てて舌でちろちろと舐めれば、直腸にある竿がびくっと震え、大きくなった。尚人が小さく喘ぐ。それが嬉しくて、ふふっと笑みがこぼれた。 「こうやって耳たぶ弄るん、何でかしら好きやねん」 「……ふぅん」 尚人は少し不機嫌だった。「元彼とかにもやってたん?」 「気持ち良くなった時とか……気づいたら、噛んでたかも」 「あっそう」 あ、コイツ拗ねたなと思った時には、尚人にやや乱暴に口づけされていた。口腔を蹂躙されると、腰のあたりにびりっと弱い痺れが走り、背中がくっと反る。唾液と吐息がねっとりと混ざりきってから唇が離れ、次いで尚人は同じようにこちらの耳朶にしゃぶりついてきた。 じゅる、と肉汁を吸い上げるような音と共に、肉厚な舌の熱くざらついた感触が這い、背筋がぞくりと震えた。その震えが声帯にまで迫り上がると、喉奥からか細い声がまろび出る。楓は尚人の硬質な黒髪を掻き乱しながら抱き、窄まりをぐっと締めた。尚人のくぐもった嬌声が鼓膜を震わせると、ますます身体は感じてしまう。 「……っ、あ……はぁ……なお、と……」 「……ふっ……ぅ、」 「ええよ……もっと舐めて、噛んで……」 尚人の前歯が耳朶に食い込むと、淡い痛みと共に甘い疼きがそこから広がった。と同時に、律動が止まっていたペニスが再び直腸を擦り始め、肉体に快感が走る。脳髄から陶酔し、意識がぼんやりとし、ただただ気持ち良くなっていく。 「…アッ……ん、ァ……!」 「楓……、かえ、で……」 「ん……、なおと、かわいい……」 自分の昔の男たちに嫉妬する恋人に、骨抜きにされているのは面映ゆいが、まぁ悪くない。心配しなくても、これまで関係を持ってきた男の誰よりも、お前のことが好きや。大好きや。なんて、決して口には出さない代わりに、楓も尚人の耳朶にかぶりつき、歯型がつくくらいに歯を立てる。一種のマーキングを施し、満足したのちは、快楽に身を委ねるのみだった。

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