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第3話

 とぼとぼと四つ足で歩くと、思った以上に惨めだった。  でもまあ、やるしかないのだろう。  それにしてもどうしようか。  他人に犯されて来いと言われても、相手にだって好みってものもあるだろうし。多少なりとも、俺から誘いを持ちかける必要が出てくる。背中の落書きだった本当に書かれているか分からないし、書いてあったとしても場所によっては暗くて見えないだろう。そうなると俺が自らお願いしますとでも言う他なさそうだが、口にはディルドを咥えている。  喋れたところで、なんて言えばいいのだろう。今までの彼は、黙る事は求めても、たとえば淫語のようなものは余り強要されなかった。  これから全く知らない人間に犯されるというのに、俺の頭は随分と冷静な心配事に悩まされる。  真っ先に懸念すべきは、そこではない筈なのに。  いずれにしろ首輪から伸びたリードを持つ彼がいなくなった今、似たような恰好で歩いてみたところで、興奮はしないらしいという事だけは分かった。  本当に、どうしようか。十何人も誘うとなると……  しかしその懸念は、杞憂で終わった。  振り返ればまだ充分ベンチの見える距離で、植え込みの近くを通るとどこからか聞き覚えのない声がした。 「キミ……今日は見せるだけじゃないの?」  ハッとして足を止め見回すも、低い姿勢では通常より死角も多く、姿は捉えられない。 「今日はそういう趣旨なんだ……? じゃあ協力してあげようかなぁ、前々から、使い心地気になってたんだ」  違う声だ。方向も少し違うところから聞こえている。  俺はどうする事も出来ず戸惑っていると、頭上に影が落ちた。 「おいでよ、こっちの方が明るい」  結局相手の顔も分からないまま、二の腕を掴まれた。  歩けという事らしいが、公園に来てからずっと四つん這いだったせいで急には動けず、殆ど引き摺られるようにして移動する羽目になった。  すぐ近くの街灯の下へ辿り着くと、躓くように手荒く転がされる。途切れた植え込みの間、土と芝生の上だったおかげで、痛みはさほどなかった。  けれど咥えていたディルドを落とし、すかさず拾い上げられる。 「へえ、いつもこんな太いの咥えてたんだ」 「本当だ、口開いてるよ」  1人は前方から、もう1人は後方から、尻の肉を左右に引っ張りながら言った。  声の雰囲気はどちらもまだ若そうだ。俺と同じくらいか、30代……行っても40代程度だろう。 「1回10円だって。そんなに緩いの?」  嘲るように言って、男は尻を叩いた。そんな言葉を吐かれたところで、ああ本当に書いてあるんだ、という以上の感慨はない。 「緩いだけならともかくさぁ、病気とか持ってないよね?」 「っ……」  ぐにぐにと、拡がった穴を親指で弄られる。五指の中で最も太い指も、並の性器より大きな玩具を咥えていたアナルには物足りない。  屋外で裸になって犬のように歩く事に興奮はせずとも、開発の進んだアナルに刺激を与えられれば堪らない快感が走った。 「ぁ……平気、ですっ……使って、下さい……っ」  相手の顔を見る事は諦め、尻を振って声だけで強請る。  他人の顔なんて見たって仕方がない。俺が見たいのは、あの人の喜ぶ顔だけ。 「そう? じゃあ使ってあげる。タダ同然の安い穴」 「ヒッ……!!」  言うなり、すぐに貫かれた。  彼とも、よく使う玩具とも違う感覚があった。  ず、ず、と抵抗を伴いながら、柔らかな粘膜を蹂躙される。 「へえ……思ったよりは締まるな。もっとガバガバかと思ったけど」  数回擦って馴染ませると、本格的な抽挿が始まった。  殆ど動く事のなかったディルドと違い、激しい抜き差しに萎えていたペニスが再び大きくなっていた事を、貞操帯に締めつけられる事で知った。 「あ、あぁっ……っは、ぁ……っ」  今の自分の状況はさておき、やはりアナルを犯される事は気持ちがいい。どうしようもないほど、それは現実だ。  すぐに、自分からも腰を振っていた。 「ねーえ? ケツは1回10円なんでしょ? じゃあ口はサービスかな?」 「ぇ、あっ……ぅぶっ!」  答える暇もなく、髪を掴まれ上向かされると、剥き出しのペニスを口に突き入れられた。  フェラは嫌いな方ではないけれど、ガンガン掘られながら行うとなると、息苦しくてつらい。  それになんだか、臭いも強いし、無駄にでかいし、ぅえ、なんだこれ、もしかしてカスか。  途端に、汚いものを入れられているという実感が湧いた。ぞわっと、全身から血の気が引いた。  でももう遅い。  既に前も後ろも、受け入れたあとだ。 「ん、んぐっ、ぅ、うぅっ」  他に人間はいる筈なのに、この2人以外にだって彼や、きっとまだどこかに俺を見ている人物は、潜んでいる筈なのに、くぐもった自分の声ばかりが響いているように思えた。  口にも喉にも内臓にも吐き気はあって、けれどぐるぐると体の中で渦巻くだけで、発散する事が出来ずにいる。  酷く気持ちが悪くて、でも何故か、気持ちがいい。 「ほらっ、出すぞ……!」  そうして暫く揺さ振られていると、アナルを犯していた男が宣言通りに吐精した。  奥まで捻じ込んで、最後の残滓まで吐き出すと、すぐにペニスは抜け出ていく。  濡れた粘膜が、夜風に当たって冷たい。  外気の冷たさが、得体の知れない人間の精液の温さよりも、不快だった。 「ん? 終わった? じゃあ交代……」 「待てよ、その前に」  未だ口を塞ぐ男との会話をぼんやり聞いていると、カシャ、という電子音と共に、周囲が一瞬明るくなる。  ……今のは?  …………撮られた?

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