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第5話
今、今は、何時だ。
「あぁっ、ひ、ぁ……っあ、ぁあッ……」
もう何人相手にしたか分からない。
何しろ顔を覚えていないどころか碌に見てもいないし、取り囲まれてはあちこちから腕が伸びてくるせいで、近くに何人いるのかもよく分からない。
「ら、ぁ、あぁっあ、ぁぐ、あっ……じゅう、えん……じゅうえん、ですっ……ぉかね、くら、ぁ、ああっ、あぃ、ぃいぁッ……!」
そんな状況で、まともに金を回収するなど、出来る筈もなく。
背中側に書かれた文字は、仰向けにされてしまえば分からない。それなのに最初の落書きに乗じて、腹や太腿にも文字だけは増えていった。
だが新たに足された文字には使用料など書かれておらず、どうやら見るに堪えない卑猥な落書きばかりだったようだ。俺も全ては把握出来ていないが、下手したらタダだとでも書かれているのかもしれない。
だから俺は、必死に口で強請るしかなかった。
誘い文句を考えていた時が、どれほどマシだったか。
「あはは、ウケる。10円だって」
「スゲー馬鹿っぽいけど、コイツ大丈夫? 変なクスリとかやってんじゃねえの?」
「さー? まあどうでもいいけど」
何人目か分からない男たちが、口々に揶揄する。
俺が精液塗れになるにつれ、汚いからと突っ込まない人間も増えた。手や口を使うだけだったり、自分で扱いてぶっかけるだけだったり。それでは当然、金は要求出来ない。
アナル以外はサービスなんだと、最初の2人組はとっくにいなくなったのに、伝言ゲームのように先にいた人間が次の人間に教える。
それは少しずつ内容を変え、今や中出しのみが有料という事になっているらしい。
もう10人どころではない人数を相手にしているのに、首の財布はなかなか重くはならない。
反面、いつまでも射精出来ずに溜め込むしかない陰嚢は重く、ずっとぎちぎちに締め上げられたペニスは最早感覚が遠い。しかし戯れに時折扱かれては、俺はビクビクと大袈裟に震える。
ああ、まずい、空が白み始めた。
「お、ぉねがいっ……ぁあ、ぅ、じゅうぇん、くぁさいっ……なんでも、してい、……からぁっ……!」
なりふり構わず縋るしかなかった。ここまで来て、恥も外聞もない。
「撮った?」
「撮った撮った」
「じゃあ仕上げ。ほら、ケツ上げろよ」
「ひっ……ぅ、う、ぁ……」
俯せになり、のろのろと腰を上げる。体力には自信がある方だったが、いい加減あちこち怠い。
少し動いただけでも、ぶじゅっと耳障りな音を立てて、中出しされた精液が溢れた。余りに量が多過ぎて、もうどんな体勢でいても垂れてしまう。
「くっさ、何発分だよ、これ……は、ゆるゆる」
「あ、ぁあ、あっ、あ……っ」
無遠慮に掻き回されると、その度に白濁は零れた。
それだけ使われたなら、緩くもなる。意識的に締める事だって、最早難しい。
「こんな臭くて緩い穴じゃ射精出来ねえからさあ、代わりにこっちを出してやるよ、便器ちゃん」
「ぁ、あ……? ぇ、ヒッ……ァアアッ……!!」
緩んだ穴に、男はあろう事か放尿したらしい。
入りきらなかったものが、独特の臭気を纏い太腿に伝い流れる。しかし殆どは中へと注がれたようで、精液の比ではないほど、一気に腹が苦しくなる。
「はーい、終わりー」
「ぁ……あっ……」
「便器の分際で零してんじゃねえよ」
「あ、いいものあるじゃん、これで塞いどいてやるよ」
「やっ……ぁ、待っ……ヒグゥウ……ッ!!」
土に塗れ精液に塗れ、汚れてしまった俺の尻尾。一体になったディルドを、容赦なく突き入れられた。
その衝撃にもまた隙間から尿と精液が漏れたが、男は構わずに捻じ込むと、持ち手部分まで尻の中へ入れてしまった。
腹が痛くて、苦しくて、でも解放は遠のく。
「ぁ……あぁ…………」
「まだ少し漏れてっけど、垂れ流しよりマシだろ? ぎゃはは!」
大笑いして、またシャッターを切る音が響いた。
フラッシュはもう光らない。その必要が、なくなってきていた。
「いい加減帰ろうぜ。明るくなってきた」
完全に日が昇れば、俺たちの時間は終わる。じき、犬の散歩や早朝のジョギングの為に、俺たちとは違う人々がここへ訪れる。
それまでには、俺たちは消えなくてはならない。
だから。
「じゅう、えん……ください……なか、出したぁ……」
帰ろうとする男のズボン裾を掴み、訴えた。
「はぁ? 本気で言ってんの」
「あーはいはい、やればいいんだろ、やれば」
「ったく、正気かよ……」
ぶつぶつ言いながらも、男たちは首の財布に金を入れてくれた。
そこでやっと、人が途切れた。
腹の痛みを堪えながら、俺は体を起こす。
財布の中身を、掌に出してみた。
ひぃ、ふぅ、みぃ、……良かった、なんとか買えそうだ。
体中ぼろぼろでつらかったけれど、俺は立ち上がり公園の入り口を目指した。
周囲はどんどん明るくなる。四つ足で歩いている時間はない。そう思い急いだものの、先ほどの男たちに追いつく事はなかったので、気持ちの焦りほど脚は動けていなかったのだろう。
……見えた、自販機。
汚れた10円玉を握り締め、夜明けよりまだ明るく光るその前へと立つ。
かしゃん、かしゃん。1枚ずつ、10円玉を入れた。指先が震えて、腸が轟いて、何度も取り落しそうになる。
なんとかコインの投入を終え、硬貨2枚を残したところで、商品ボタンにランプが点く。
「コーヒー……」
呟いて、よく彼が飲んでいる缶コーヒーを選んだ。
取り出し口から商品を取り出すと、深過ぎるディルドに内臓を圧迫された。
「あ、はぁっ……っ、う、んっ……」
漏れた吐息は、甘く掠れていた。
全身弄り回され疲労感を帯びた体は酷く敏感で、こんなにも精液を浴びても、俺自身はまだ1度も達していない。
吐き気さえも、快感になる始末だ。
早く、コーヒーを届けよう。
そうしたら帰る前に、1度射精させて貰おう。
腹も痛むが、注がれた小便の大半は溢れ出てしまったようで、まだ少しくらいは耐えられそうだ。
それよりもまず、ちゃんと、気持ち良くなりたい。
これだけ体を張ったんだ、そのくらいのご褒美は、貰える筈。
俺は精一杯の急ぎ足で、丘の上のベンチを目指した。
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