6 / 7

第6話

「あの……コーヒー……買って、きた……」 「うん、おかえり。遅いから帰っちゃおうかと思ったよ」 「っ……! あ、ぁ、待たせて……ごめん、なさい」  あれから数時間、未だそこに座っていた彼の言葉に、俺は今更ハッとした。  もしかしたら置いていかれてしまうかもしれないという危険性に、その時初めて気付いた。  それは……それだけは。  だがとにかく、今回は最悪の結果は免れたようだ。ひとまず帰って、休んで、それからちょっと、話し合おう。  このままエスカレートしてしまうのは、怖い。さっきだって写真や、きっと動画も沢山撮られた。もうここへは来たくない。  それをきちんと、言おう。  あとその前に、射精、させて貰おう。  俺ももう、解放、されたい。 「頂戴、コーヒー」 「う、うん……これ」  手を差し出した彼に、汚れぬようちょこんと指先で摘んでいた缶を渡した。  円筒形のそれを受け取ると、彼はまじまじとパッケージを見詰めている。  ……喜んでいる、という顔ではない。 「うーん……微糖?」 「そ……だけど」 「んー……今はブラックが飲みたかったなぁ」  褒めて貰えると思っていた。  コーヒーを買って戻れば彼はいて、良く出来ましたと、褒めてくれるのだと。  それが、冗談だったのかどうか、彼は先に帰る事を仄めかした挙句、コーヒーを受け取っても満足した様子はない。 「そ、そう……言われても……」  コーヒーを買って来いとしか言われなかった。  いつもの銘柄を選んだだけだ。  こんなの、まるで言いがかりではないか。 「ねえ、もう1回買ってきてよ」 「えっ……! だ、だって、金、もう、ない……」 「それならもう1度稼いで来たら?」 「そんなっ……そ、それにもう、朝になるし」  事もなげに、恐ろしい言葉が次々と紡がれる。  もう1回? こんな事を、もう1回?  やっと終わったんだと胸を撫で下ろした。  なのにまだやれと? 続けろと?  空も明るくなり始めたというのに? 「イヤ?」 「い、嫌も何も……」 「やめておく? やめたい? これ、出したくない?」 「っ!」  彼はあくまでも穏やかな口調で、コーヒーを持つ手を前方に翳した。  缶コーヒーの底で、勃起したままのペニスを突かれる。真っ赤に充血した亀頭に、ひんやりとした感触はそれだけで強い刺激となった。 「じゃあ、出さずに帰る? こーんなにザーメン塗れになったのに、おしっこまで出されたのに、折角買ったコーヒーも無駄にして、ぜーんぶ無駄にして、帰る?」  ああ、小便出されたの、知ってるんだ。良かった、ちゃんと、見ていてはくれたんだ。  この期に及んでちょっと安心してしまったけれど、状況はそれほど平和的ではない。  冷たい缶で、がちがちに勃起したペニスや、ぱんぱんに張った睾丸を突かれて、膝が笑う。 「ビスの頑張りが全部無駄になるけど、それでいいの?」  くにゅくにゅと弾力のある皮膚を押し、時折貞操帯の金具に当たって、硬質な音が響く。  たったそれだけの事に、俺は身動きが出来なくなる。  射精の欲求もあるし、俺の数時間の働きが無駄になるという発言も、なかなかに痛いところを突く指摘だった。 「ビスがもうちょっと頑張るって言うなら、1回だけ射精させてあげる」  彼の口元が、吊り上がった。  これも笑うという表情には違いないが、俺が見たいのはそれとは少し違う。  違うけれど、しかし似た表情は、容易く俺の判断力を奪っていく。 「射精……したい、けど……でもっ、ここじゃ……」 「うんうん、昼間は人ももう来ないだろうしね」 「どうしたら……っ」 「大丈夫、そこはまた手伝ってあげるから。どうする? まだ頑張る?」  腹が痛くて、陰嚢はもっと痛くて、ペニスはもう、痛いかどうかも分からなくて。  痛みから解放されたい以上に、それは途轍もない快楽を生むであろう事を、体が知っている。  一口でいい。  甘い甘い快感を味わえたなら。 「…………頑張る」  泣きそうな声で、そう告げた。  そうしたら、彼は俺の好きな笑顔で、笑ってくれた。 「いいよ、ほら。出しな」  もう一方の手が伸びて、俺を散々戒めていた拘束具が外される。  射精が許されるや否や、両手でペニスを扱いた。  あっという間に絶頂は訪れ、堰き止められていた分大量の精液が、断続的に噴き出す。  神経という神経が焼き切れてしまいそうなほど、甘く毒々しい射精だった。 「ぁ……あぁっ……きもちぃ、きもちぃぃいッ……!」  知らず知らず涎まで垂らしながら、俺は果てた。  ぼたぼたと、重い液体が地面に落ち、すっかり土で汚れてしまった俺の足にも、それは落ちた。 「いっぱい出たねぇ」  彼はにこにこと、上機嫌で笑う。  そして。 「それじゃあもうちょっと、頑張ろうね」  余韻に浸る暇もなく、俺のペニスは再び縛り上げられた。

ともだちにシェアしよう!