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第6話
「あの……コーヒー……買って、きた……」
「うん、おかえり。遅いから帰っちゃおうかと思ったよ」
「っ……! あ、ぁ、待たせて……ごめん、なさい」
あれから数時間、未だそこに座っていた彼の言葉に、俺は今更ハッとした。
もしかしたら置いていかれてしまうかもしれないという危険性に、その時初めて気付いた。
それは……それだけは。
だがとにかく、今回は最悪の結果は免れたようだ。ひとまず帰って、休んで、それからちょっと、話し合おう。
このままエスカレートしてしまうのは、怖い。さっきだって写真や、きっと動画も沢山撮られた。もうここへは来たくない。
それをきちんと、言おう。
あとその前に、射精、させて貰おう。
俺ももう、解放、されたい。
「頂戴、コーヒー」
「う、うん……これ」
手を差し出した彼に、汚れぬようちょこんと指先で摘んでいた缶を渡した。
円筒形のそれを受け取ると、彼はまじまじとパッケージを見詰めている。
……喜んでいる、という顔ではない。
「うーん……微糖?」
「そ……だけど」
「んー……今はブラックが飲みたかったなぁ」
褒めて貰えると思っていた。
コーヒーを買って戻れば彼はいて、良く出来ましたと、褒めてくれるのだと。
それが、冗談だったのかどうか、彼は先に帰る事を仄めかした挙句、コーヒーを受け取っても満足した様子はない。
「そ、そう……言われても……」
コーヒーを買って来いとしか言われなかった。
いつもの銘柄を選んだだけだ。
こんなの、まるで言いがかりではないか。
「ねえ、もう1回買ってきてよ」
「えっ……! だ、だって、金、もう、ない……」
「それならもう1度稼いで来たら?」
「そんなっ……そ、それにもう、朝になるし」
事もなげに、恐ろしい言葉が次々と紡がれる。
もう1回? こんな事を、もう1回?
やっと終わったんだと胸を撫で下ろした。
なのにまだやれと? 続けろと?
空も明るくなり始めたというのに?
「イヤ?」
「い、嫌も何も……」
「やめておく? やめたい? これ、出したくない?」
「っ!」
彼はあくまでも穏やかな口調で、コーヒーを持つ手を前方に翳した。
缶コーヒーの底で、勃起したままのペニスを突かれる。真っ赤に充血した亀頭に、ひんやりとした感触はそれだけで強い刺激となった。
「じゃあ、出さずに帰る? こーんなにザーメン塗れになったのに、おしっこまで出されたのに、折角買ったコーヒーも無駄にして、ぜーんぶ無駄にして、帰る?」
ああ、小便出されたの、知ってるんだ。良かった、ちゃんと、見ていてはくれたんだ。
この期に及んでちょっと安心してしまったけれど、状況はそれほど平和的ではない。
冷たい缶で、がちがちに勃起したペニスや、ぱんぱんに張った睾丸を突かれて、膝が笑う。
「ビスの頑張りが全部無駄になるけど、それでいいの?」
くにゅくにゅと弾力のある皮膚を押し、時折貞操帯の金具に当たって、硬質な音が響く。
たったそれだけの事に、俺は身動きが出来なくなる。
射精の欲求もあるし、俺の数時間の働きが無駄になるという発言も、なかなかに痛いところを突く指摘だった。
「ビスがもうちょっと頑張るって言うなら、1回だけ射精させてあげる」
彼の口元が、吊り上がった。
これも笑うという表情には違いないが、俺が見たいのはそれとは少し違う。
違うけれど、しかし似た表情は、容易く俺の判断力を奪っていく。
「射精……したい、けど……でもっ、ここじゃ……」
「うんうん、昼間は人ももう来ないだろうしね」
「どうしたら……っ」
「大丈夫、そこはまた手伝ってあげるから。どうする? まだ頑張る?」
腹が痛くて、陰嚢はもっと痛くて、ペニスはもう、痛いかどうかも分からなくて。
痛みから解放されたい以上に、それは途轍もない快楽を生むであろう事を、体が知っている。
一口でいい。
甘い甘い快感を味わえたなら。
「…………頑張る」
泣きそうな声で、そう告げた。
そうしたら、彼は俺の好きな笑顔で、笑ってくれた。
「いいよ、ほら。出しな」
もう一方の手が伸びて、俺を散々戒めていた拘束具が外される。
射精が許されるや否や、両手でペニスを扱いた。
あっという間に絶頂は訪れ、堰き止められていた分大量の精液が、断続的に噴き出す。
神経という神経が焼き切れてしまいそうなほど、甘く毒々しい射精だった。
「ぁ……あぁっ……きもちぃ、きもちぃぃいッ……!」
知らず知らず涎まで垂らしながら、俺は果てた。
ぼたぼたと、重い液体が地面に落ち、すっかり土で汚れてしまった俺の足にも、それは落ちた。
「いっぱい出たねぇ」
彼はにこにこと、上機嫌で笑う。
そして。
「それじゃあもうちょっと、頑張ろうね」
余韻に浸る暇もなく、俺のペニスは再び縛り上げられた。
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