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第4話

「僕の裸なんか眺めて、一体何になるんだ」 「最高の気分に浸れるかな」  さらっとそう返され、動揺しないこともなかった。が、ポールは仏頂面を保つ。「だいぶ酔ってるみたいだな」 「ワインが美味しくてね。ついつい飲み過ぎちゃったかな?」 「じゃあ、今夜はシャワー浴びない方がいいな」 「うん、俺は明日にする」 「なら、今すぐドアを閉めて。本当にスーツがダメになる」  ショーンは心地良さそうに微笑んだまま、その場から動こうとしなかった。仕方がないので、ポールは彼を無視して再びシャワーを浴び始めた。……ショーンのスーツは今年の1月に買い、翌月の友人の結婚式に着て出席して以来、一度も袖を通していなかったはずだ。今夜のようなフォーマルな集まりは多くなく、普段はラフな私服で通勤し生活しているため、彼のその格好は見慣れないものであった。  彼が身に纏っているスーツ一式とシルバーのネクタイピン、キャメル色の革靴で、彼の給料1ヶ月分に相当する金額になるはずだ。治安の悪い地区を歩けば、よだれを垂らした泥棒にすべてを剥ぎ取られ、逃げられるに違いない。そんな贅沢品を、たった2回の着用で傷ませるようなことをしてまで、自分の裸に価値があるとはポールは到底思えず、またシャワーを浴びる気が途端に失せてきた。  ……今の今まで彼への苛立ちばかりが胸を占めていたが、自分だけが裸であるこの状況に、今更ながら居心地が悪くなってくる。それに、自分に注がれる妙に熱っぽい視線が、身体にねっとりとまとわりついてくるようで、何だか落ち着かなかった。  それでもポールは平静を装い、ごく自然な動作でシャワーを止めて前髪を搔きあげた。無意味だと思いながらも濡れた手で顔の水気を拭っていると、ばさっと白いバスタオルが放り投げられた。 「……ありがとう」 「いいえ。ねぇ、やっぱり何かそっけないね?」  それを掴み、頭から被ったところで、ふわふわとした声で訊ねられた。「そんなことない」とややすげなく返せば、くすっと小さな笑い声がした。 「帰りが遅くなったのが気に入らなかった?」 「だから別に何も思ってないって」 「あ、そう言えば返事し忘れてたね。ごめん」  ポールは何も言わず、浴室を出ようとした。行く手を阻まれるかと思いきや、ショーンはすんなりと退いてくれたが、今度は脱衣所の壁にこてんと頭を預けると、彼にそっぽを向いて髪の毛を拭き始めたポールを、舐めるように見てきた。……居心地の悪さが倍増し、どこもかしこもむずむずとしてくる。思わず、舌打ちが出そうになるも堪え、ポールはぼそりと低い声で言う。 「……何だよ」 「んー?」 「あまり、見るなよ……」  ショーンが楽しげにくすくすと笑った。それが羞恥心を激しく煽ってきた。情けなくも下半身が反応してしまい、顔にカッと熱が集まったのを感じる。不運にもポールは洗面台の鏡と向き合っており、自らのみっともない表情が見えた瞬間、俯く他なかった。  

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