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かわらない声

「お前デカイから掛け布団足りないんだよな。安いのでいいからタオルケット買おうぜ」 「佐原はちっちゃい丸虫みたいに寝てるよね」 「ハア?! 虫ィ?!」  休みの日まで一緒にホームセンターに買い物に来ている俺たちはなんなんだろうかと半分諦めモードの佐原は目の前にいる無駄に背の高い男の背中を眺めた。 「待って、(のぞみ)」  通路の向こうで誰かを呼ぶ声がして、ふらふらと前を歩いていた茅葺はいきなり足を止めた。  不自然な動きをする茅葺の背中越しに会計を終えたらしき客が前を横切る。  名前を呼んだ方だろうか、華奢で綺麗な顔の作り男がもう一人の連れの男に重いから荷物を持ってくれと頼んでいた。頼まれた男が文句も言わずにそれを受け取ると「ありがとう」と微笑みと謝辞を送っていた。 「一服したい」 「さっきも一人でしてたじゃない」  連れの男の希望に呆れながらも彼は付き合うのか喫煙所に二人は向かうようだ。それを黙ったまま、まるで息を殺すかのように茅葺は目で追う。  ふいに一見強面に見えた方の男が隣の彼に向かって微笑みかけた。とても優しい眼差しだと素直に佐原は感じた。  それを見た瞬間に茅葺は二人から正反対の方に向かって駆け出した。 「(とおる)!!」  そう呼んだと同時に華奢な男がこちらに驚いたような目に一瞬なったように佐原には思えた。  売り場の一番奥にまで茅葺は逃げ込んだ。佐原にはそう“逃げた”ようにしか見えなかった。 「龍、なんだよ、急に……っ」  全く脚の長さの違う男に追いつくのは佐原にはなかなかにキツかった。情けないことに息が少し上がる。  茅葺の前に回り込んで顔を覗くとひどく青白く冷や汗が見えた。さらに心臓が痛むのか自分の胸のあたりをぎゅっと握りしめている。  この男がここまであからさまに動揺してショックを受ける要因は佐原が知る限りひとつしかなかった。 「――まさか、あの人が……“イズミ”?」  確信をついたのかピクリと茅葺の肩が震える。 「男の人……だったの――?」 「――ビビったろ……?」  そう告げる茅葺は全然うまく笑えていなかった。 「――ただ……驚いてる……」 『希……』  優しい、柔らかい、あの声――。  茅葺の鼓膜に張り付いて、刻まれたみたいに取り除くことが出来ない……。  泉は書店で盗み見た時と同じように綺麗な顔をして笑っていた――。そして、それを鏡に写したようにあの男も笑っていた――

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